第7話 怪奇探偵結成
目を細めて疑う斎藤。
「ま、まあな。俺たちは斎藤より一年先輩だ。色んな経験だってしてるさ。なっ、天音?」
「う、うん、もちろん……。モカちゃんだってこれから色々あると思うよー」
「ご心配なく。もう経験済みなんで」
「「ええっ!?!?」」
俺と天音が目を見開く。
「まっ、冗談はさておき」
「お前なっ!」
「我々はもう運命共同体。組織の一員として連絡先交換を」
探偵ごっこのつもりだろうか。
斎藤が鞄の中から可愛らしいピンクのスマホを取り出した。
「いいよー、交換しよー」
天音が白のスマホを鞄から取り出し、あっさりと連絡先を教えている。
その横で、俺は教えたくない気持ちでいた。どう見ても、斎藤はトラブルメーカー臭がする。俺の本能がやめておけと叫んでいる。
「ではでは、ハル先輩も」
「あー、俺いまスマホねーわ。忘れたっぽい」
「あら残念。せっかく怪奇探偵設立の記念に佐藤……木下でしたっけ? まあどっちでもいいですけど、そのひとの新情報をひとつ提示しようと思ったのに」
「なに! 本当か」
「けど、先輩はスマホ忘れたんですよね? もし今鞄からテッテレーって出したとしたら、わたしと連絡先交換するのが嫌だったと取りますけどどうします?」
「く……っ」
自分を窮地に追い込んでしまった。
鞄に目をやるが、中身に手を伸ばせない。さっきまではテッテレーする気満々だったのに。
「ごめんモカちゃん。それたぶん、嫌だったんじゃなくて怖かったんだと思う。ハルくん、わたしと家族しか電話帳に入ってないから」
「えっ!? ホントですか、先輩?」
「…………ああ、そうだよ。悪いか?」
「せ、先輩…………不憫な子」
「うっせえわ!」
わざとらしく目元に両手をあてがう斎藤。無性に腹が立つ。
だがしかし、天音のナイスアシストにより、角が立たずに連絡先交換を済ませることが出来た。
「よし! 今から俺たち三人は怪奇探偵だ。隠し事はナシだ。さっき言ってた情報を頼む」
「口に出すのはちょっと……」
もじもじする斎藤。「メールならば」と言いながら素早くタップしている。
とんでもない速さでメールが来た。フリック検定なるものがあればそこそこいくだろう。
静かに下を向き、メールを確認する。
『木下、舐めるのウマし』
「やかましいわ!」
再び店内の客から白い目を向けられながら、俺たちはカフェをあとにした。
斎藤は逆方向に帰っていき、俺は天音とふたり家を目指す。
「モカちゃん、悪い子じゃないんだけどね」
「俺は苦手だ」
「まあちょっとね。でも、よかったじゃない。仲間が増えたんだから。これで犯人捜しに一歩前進って感じよね」
「それなんだけどな。俺はまだ信じてない」
「なにを?」
「斎藤を、だ。一応、口裏は合わせておいたが、アイツが本当に味方なのか分からない。もしかしたら、木下をああいう状態にした張本人かもしれないし、黒幕の手下かもしれない」
「そうかもだけど……。みんなを疑い始めたらキリがないよ」
「…………」
俺は返す言葉が見つからなかった。
それどころか、あそこまで突っ込んだ情報を斎藤に言ってしまったことに未だ後悔の念がある。帰宅後、斎藤が幹部にチクっている、そんな姿が目に浮かんだ。
どんよりとした気分の中、気づけば家に着いていた。
「それじゃあ、また明日ね」
「ああ」
隣の家に帰宅していく天音に軽く手を振りながら、俺は自分の家に入った。
まだ電気は点いていない。
今も連絡し続けているが、家族三人からは音沙汰なし。
仕方なく、ひとりで夕飯を食べ、風呂に入り、自室に向かった。
「はあー、疲れたな」
ベッドで仰向けに寝ると、あの時のことが思い出される。こんな感じで目覚めたんだよな。
<ピンポーン!>
夜十時。
こんな時間に誰だと思い、インターフォンの画面を覗くと、見知った顔が映っていた。
「佐倉!?」
慌てて玄関に移動する。
「どーしたんだ?」
玄関を開けるなり声を掛ける。その寂し気な様子と、未だ制服姿であることに不信感を抱きながら。
「上がっていい?」
「いいけど。あっ、天音も呼ぶか?」
「いい。アンタに用事だから」
「そっか」
玄関先で靴を脱いでいる佐倉の背中を眺める。付き合いは一年ちょっとになるが、俺の家に上がるのは今日が初めてのことだ。
俺に用事とは、いったい?
二階への階段を上り、自室に案内した。
「散らかってるけど、どうぞ」
「お邪魔します」
俺が椅子に腰掛けた時に聞こえたカチャリという妙な音。
それはドアの鍵を閉めた音だ。
「佐倉?」
「ねえアンタ、怪奇探偵って知ってる?」
「――ッ!!」
それは、俺と天音、そして斎藤しか知らないはずの、今日出来たてほやほやのチームの名。なぜそれを佐倉が。
もしや、斎藤と佐倉が繋がっているのか?
「佐倉、お前、斎藤と……」
「斎藤? 誰それ」
本当に知らないのか、演技なのか、皆目見当がつかない。
徐々に近づいてくる斎藤。手に持つ鞄が気になってしまう。突然そこから物騒なものを出すんじゃないだろうか、って感じに。
壁際まで逃げる俺の目と鼻の先に佐倉がいる。
そして、こう呟いてきた。
「あの時と同じように犯したげる♪」
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