幼馴染に穴をあけたの誰ですか?
文嶌のと
第1話 地獄への階段
俺には大好きな幼馴染がいる。
名前は、
ガキの頃からずっとお隣さんで、学校も同じ。
でも、共通点などは全くなく、俺を悪魔に例えるなら天音は紛れもなく天使だ。
天音はその名に恥じぬほど誰にでも親切で、優秀で、可愛くて。
人当たりの悪い俺みたいなクズにも優しくしてくれる。今でもずっと。
だけど、俺は決意した。
――二葉天音と絶交することを。
※※※
電気を消した自室の中、俺はパソコンの光を顔に受けていた。
「クソっ!! 外したっ!!」
ヘッドショットを狙い、あえなく失敗。
いつもなら確実に当たるはずなのに。
「コイツ、チーターじゃねえだろーな。マジむかつくわ」
ストレスを溜める俺の耳に、コツコツという音が響いた。
左に目をやると、屋根伝いにやってきた天音が窓を叩いていた。
「(ハルくーん、開けてー)」
窓に遮られながらも聞こえてくる天音の声。
俺はパソコンに視線を戻す。
「(無視しないでー、ハルくーん)」
ガキの頃から変わらず、毎日こうやって訪ねてくる。
俺みたいなヤツとつるんでも何の利点もないというのに。むしろマイナスだ。
つい先日。
忘れ物を取りに帰った放課後の教室で、女子三人が話しているのを聴いた。「二葉さんって優秀なのに、なんであんなヤツと一緒にいんのかな?」一人の女子の発言に他も賛同。「
確かにその通りだ。
俺と離れれば天音は学園の天使様へと上り詰められるのだ。
俺さえ消えれば。
「(ねえー、ハルくーん、聞いてるー?)」
俺はキーボードを激しく叩き、席を立った。
黙って窓の鍵を開ける。
「ハルくん遅いよ。寒いし、風邪引いちゃうよ」
「もう四月だろーが」
窓を開けて、慣れた様子で入ってくる天音に言い返した。
横を行く天音から香しい匂いが鼻をつく。
下校してからまだ着替えをしていない制服姿が愛らしかった。赤のスカートをなびかせて俺のベッドに天音が座る。
「もう四月なのに学校に来ないのはどこの誰ですか?」
ふわりとした長い茶髪を揺らしながら頬を膨らませてくる。
「うるせぇ! ほっとけ!」
「あー! またそんな言い方」
椅子に座り直し、ゲームを続行する。
しばらくすると、突然背中に柔らかいものが当たる。
「くっ付くな! 鬱陶しい!」
「ねえ、それ新しいゲーム?」
「お前には関係ねえよ」
「あーそーですか」
ゲームを全くしない天音が不貞腐れて離れていく。
何とも言えない沈黙を掻き消すように、俺は呟いた。
「お前、なんで俺といつも居んだよ」
「さあ」
答えを提示しない天音をチラリと見た。
本棚から拝借した漫画を、いつも通りうつ伏せスタイルで読んでいる。ちょっとでも動けばパンツが見えそうだ。
そんなことが頭をよぎり、俺は視線をパソコンに戻す。
「ねえ知ってる? 深月ちゃん好きな子できたんだって」
天音が言うソイツは、
「それが何だよ?」
「別にー。青春してるなーと思って」
「お前も青春すりゃあいいだろ」
「相手がいないもん」
「あーそーですか」
さっき言われた時と同じように皮肉交じりにそう返す。
天使すぎる自分に見合う男なんて居ませんってことか。
そんな時、コツコツとドアをノックする音が聞こえた。
「やっぱり天音ちゃん居たぁ」
ニヤリとしながら姉――
「お邪魔してまーす。雫さん、また一段とお美しくなられて」
「やだ天音ちゃんったらお上手なんだから」
ただドアの隙間から覗くだけで一向に入ってこない姉。
「何しに来たんだよ! 用がねえならさっさと出てけ!」
「こら! 姉に向かってなんて口!」
「そーだそーだ。ハルくんヒトデナシー」
「うるせぇ! 黙ってろ!」
二人が顔を見合わせて笑っている。
「これあげようと思って」
姉の手に二本のペットボトルがあった。
「なんだよソレ?」
「ジュース」
「変なもんでも入ってんじゃねえのか?」
「失礼ね!」
わざとらしく怒りながら天音に二本とも手渡してそそくさと出ていった姉。
二本とも白く濁っていて見るからに怪しい。
「いただきまーす」
「待て! やめとけ!」
「なんで?」
「どー考えたって怪しいだろ! 何なんだ、この濁りは」
「カルピス系じゃないの?」
カルピスなら全体的に白いはずだが、これは所々白いのだ。さも、透明だった飲み物に何かを入れました的な。
そんな思案する俺をよそに、ベッドで豪快に飲む天音。
「バカかっ! やめろって!」
「へーきだよ。ほら」
手をあげて安全を証明しているようだ。
「ねえ、わたし飲んだんだからハルくんも飲んでよ」
「はあ!? 何でだよ!」
「ひどいわ! わたしだけ死ねばいいってことね!」
わざとらしく演技をする天音。
「わーったよ!」
キャップを外し、勢いよく飲む。
俺は今日、天音に絶交の話をするはずだったのだが、なぜにこんなことになっているのか、などと思いながら味だけは甘く美味しかったソレを半分くらい飲んでやった。
「よっ、言い飲みっぷりだね、旦那!」
「やめろ!」
しばらく冗談を言い合ったあと。
――ぐっ!?!?
突然激しい動悸に襲われる。
慌てて天音に目をやると、あちらも心臓辺りを押さえて額に汗をかいていた。苦悩の表情で声が出せずにいる天音に、俺は必死で近づいた。大事な幼馴染を守りたい、その一心で。
だが、頑張り虚しく、そこで俺の意識は消えていった……。
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