夜明けまで君と花火を
山羊野 メユメ
第1話
「ごめん。気持ちはうれしいけど付き合えない」
明日から夏休み。
そうほとんどの人が学校からの解放感で喜んでいるはずの授業終わりに、私の片思いは玉砕した。
相手は再度軽く私に謝ると、校門前で待っている友人のほうへ駆け足で去っていった。まぁ結果なんてわかってたけど……と、校舎の陰で壁にもたれてぽつりと呟いた。少し遅れて胸がチクりと痛んで、目元もジンジン熱くなってきた。こんな顔を誰にも見られたくなくて、正門ではなく人の少ない裏門から校舎を出た。裏門から出てからただひたすら歩いた。下を向いて、徐々に歩く速度が速くなっていき、気付いたら学校から少し離れた場所にある海辺へ走っていた。海の砂浜を踏んでもまだしばらくは足は止まらなかった。顔は涙も鼻水も滴るいい不細工で、ここまで来たら浜辺の端まで走ってやろうとヤケクソに足を動かしていた。が、走り疲れたのか足が縺れて砂浜へと勢いよく倒れた。砂の味がする、起き上がりたくない。
泣きっ面に砂。自分史上最悪な顔面を浜辺からのそりと離しその場にへたり込む。手と持っていたハンチカとポケットティッシュで顔にへばりついた砂を取り、顔から出た水分を拭う。けれど失恋で悲しいのか砂まみれで情けないのか、涙はまだ止まらない。自分の気持ちと顔面に奮闘していると、後ろから声が聞こえた。
「そんなになって一体どうしたのさ……」
声の聞こえた方へ振り向くと、そこには別荘風の家が建っていた。海辺の端と林の狭間にある白色を基調にしたその建物の白い窓枠の向こうから、見知らぬ若い男性がこちらを見ていた。
男性も聞こえていると思わなかったのか、振り向いた私の顔が予想以上に酷かったのか、私と目が合って驚いている様だった。
「……ほっといてください」
「あぁ、ごめんね。独り言のつもりだったんだ。こんな所まで泣きながら走ってくる子は初めて見たから」
そうか、この男性からすると、ここに住んでいたら突然浜辺を泣きながら走ってくる女子高生が現れ、かと思ったら家の前で全力で転倒し座りながら呻いている訳だ。気にするなというほうが難しいかもしれない。……申し訳なくなってきた。
「はい、これ良かったらどうぞ」
彼は部屋から、私のいる砂浜側にあるテラスに出てくるとボックスティッシュと小さなダストボックスを差し出してきた。
「その可愛いハンカチ、ティッシュじゃもう限界でしょ?」
「……ありがとうございます」
「いえいえ、落ち着いたら声かけてね」
彼は私を気遣ってか、テラスからまた部屋に戻っていった。
◇
「あの、ありがとうございました」
「いいえ、すっきりしたみたいだね」
「おかげさまで」
ボックスティッシュとダストボックスを返したが、使用済みのゴミたちはさすがに見ず知らずの人に捨てさせるのは申し訳ないので、鞄に入っていた使い捨てのビニール袋に入れて持って帰って捨てることにした。
「後日お礼しにまた来ます」
「そんなに良いのに」
「いいえ、ご迷惑をおかけしたので」
「そう?じゃあ気長に待っているよ。そろそろ帰らないと暗くなって危ないよ」
「はい。ありがとうございました」
海の方へ振り返ると、夕日が水面を茜色に染始めていた。
こういう時のお礼の品は何がいいんだろう。菓子折りだろうか、それとも新品のボックスティッシュのセットだろうか……たくさん使っちゃったし。と、片手にゴミでパンパンになったビニール袋を見つめながら思った。
夜明けまで君と花火を 山羊野 メユメ @yaginoko36
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