【KAC20234】真夜中の急展開

小龍ろん

真夜中の急展開

 その日、世界中の人々は不思議な声を聞いた。


“喜べ人の子らよ。世界は生まれ変わった”


 声の主は神か、悪魔か。その正体はようとして知れない。だが、人智を越えた存在であることに疑いはなかった。謎の声の言葉通り、世界には大きな変化が訪れたのだ。


 世界に訪れた変化。その筆頭として上げられるのが、各地に発生した特殊な領域だろう。その領域は、人類がこれまで常識としてきた理論・法則が通用しない。


 空間は歪み、物理法則に反した事象が確認される不思議な領域。各国はそれをダンジョンと称し、立ち入りを規制した。しかし、それでもダンジョンに魅せられる人間は絶えない。



◆◇◆



 一攫千金を狙うショウとカズキは、その日もダンジョン探索に挑戦した。アタックしたのは何度目かの百貨店ダンジョンだ。だが、依然として成果は得られていない。慣れてきたこともあって、探索はスムーズになってきたが、それでも目的の宝石店は見つからなかった。


「おかしいッス。前回とは構造が違ってるッス」

「みたいだな。少しずつ配置を把握する作戦は失敗か」


 彼らが挑んでいる百貨店ダンジョンは、内部構造が変化するタイプのダンジョンだったのだ。少しずつ探索範囲を広げて、宝石店を見つけるという作戦は難しくなった。


「やっぱり、ダンジョンで一攫千金なんて無理なんスかね……」

「お前らしくないな。俺たちには目的がある。そうだろ?」

「そうだったッス!」


 先日とは逆に、弱気になったカズキをショウが励ました。お互いをフォローしあえる、意外と相性の良いコンビである。


 さて、彼らがダンジョンに潜る目的。それはもちろん一攫千金だ。だが、それを求めるのにも理由があった。


 しかし、その実、二人の認識は食い違っている。


 ダンジョンという不思議空間が出現してすぐの時期に、こんなやりとりがあった。


「兄貴! 妹が、妹が!」

「どうした! 何があった!?」

「妹がダンジョンの(財宝で一山当てた)せいで(働かずにゴロゴロと)寝たきりになったッス!」

「何!? そうか、(妹がダンジョンで重傷を負ったのか)それは辛いな」

「そうなんス。(見せつけられて)辛いっス」

「そうだよな……」

「だから、俺、決めたッス! ダンジョンに潜って(ゴロゴロするための)金を稼ぐッス」

「そうか、ダンジョンで(妹の治療のための)金を稼ぐか。そういうことなら俺も協力しよう」

「本当っスか!? さすが、兄貴っス!」


 そんな誤解はあるものの、二人で励まし合って、探索を続けているのだった。


「とはいえ、もうじき日付が変わる。もう少し早く切り上げるべきだったな」

「明日の仕事が辛いっス」


 ダンジョンから帰る道すがら、闇の中で二人はのんびりと歩く。


 ふらふらと遊んでいるように見えて、彼らも昼間は仕事をしている。兼業探索者なのだ。ダンジョンに入る時間が遅いので、探索に時間がかかると、今日のように日付をまたぐことになる。


「ま、たまには真夜中の散歩も悪くないだろ」

「たまで済めばいいんスけどね……」


 散歩感覚で歩く二人は忘れていた。この周辺はダンジョンが乱立する不安定な地域だ。そして、ダンジョンの発生はある日、突然やってくる。


「な、なんだ!?」

「地震っスか!?」


 ゴゴゴと重たい地響きの音が彼らの耳に届く。グラリとした大きな揺れに平衡感覚が失われた。まるで、突然地面が消え失せたかのように。


「って、本当に地面がない!?」

「落ちるッス! 真っ逆さまっスよ!」


 ある日の真夜中。彼らは新たに発生したダンジョンに飲み込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20234】真夜中の急展開 小龍ろん @dolphin025025

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ