こぼれ落ちた星の雫

LeeArgent

こぼれ落ちた星の雫

 濃紺の星空に、光のレールが煌めく。

 漆黒の機関車が、虹色の煙を吐き出しながら走っていく。


 スピカは漆黒の髪を揺らしながら、川べりを散歩していた。

 夜は好きだ。夜にこそ、星々の光が煌めいて、空に彩りをもたらす。それは赤、青、黄と煌めいて、この街にも降り注ぐ。


 ふと、足元に目を向けた。


 道に落ちている小さな石。それは黄色にきらきらと発光している。

 一目でわかった。星屑の結晶ではないか。


 スピカはそれに近付いて拾い上げる。

 その先にまた一つ。青く発光する星屑が、目の前に落ちている。

 

 近付いて拾い上げる。

 その先にまた一つ。赤く発光する星屑が、目の前に落ちている。


 スピカは立ち上がって道の先を見た。

 等間隔に、点々と、星屑の結晶がいくつも落ちていた。まるで誰かが通った跡のように。


 スピカはそれを不思議に思いながらも、その星屑を辿ることにした。

 一つ拾って、次の星屑へ。拾って、次の星屑へ。


 随分と長いことそうしていた。やがて腰が痛くなってきた頃に、スピカは彼女と出会った。


「あっ」


 何度も見かけた姿であった。

 髪は金、瞳は青。彼女の名前はエウレカ。

 

 スピカは目を疑った。彼女はスピカ自身がタルタロスへと送り届けたはずなのだ。


「エウレカ、よね?」


 スピカは問う。

 何とも滑稽な質問だ。何度も目にした彼女の姿、見間違えるはずがないのだから。

 だが、彼女が生者の世界に居るなど疑わしく、問いかけずにはいられなかったのだ。


 エウレカは笑う。


「久しぶりね、スピカ」


「あなた、どうやってここに来たの?」


 スピカは問いを重ねる。

 エウレカはスピカが抱える星屑を見て、ふわりと微笑んだ。


「ああ、拾ってくれたのね。ありがとう」


 スピカは手の中にある星屑をエウレカに差し出す。エウレカが星屑を抱えると、彼女の神秘的な姿も相まって、彼女自身が光っているように見えた。

 スピカは混乱していた。この星の理を知っているからこそ、エウレカの存在は有り得ないと否定してしまいそうになる。

 だが、実際エウレカは、目の前に存在しているのだ。

 

「答えて頂戴。蘇りは、代償がないとできないのよ? あなた、どうやってここに来たの?」


 エウレカは笑う。ただ笑う。


「私、あなたにちゃんとお礼をしたかったの」


「私に……?」


 エウレカはスピカに近付いた。そして、一際青く輝く星屑を、スピカの手に握らせる。


「これ……」


 スピカは目を見開く。

 エウレカは語る。


「私の魂の一欠片。あなたにあげる。本当に困ったことがあった時、あなたの力になってくれるわ。

 まあ、あなたのことだから、他人のために使っちゃいそうね」


 エウレカはくすくすと笑いをこぼす。

 

 スピカは、自分の手の中にある星屑を見つめる。エウレカの瞳と同じ、澄んだ青色。まるで海を宝石にしたかのように美しい。


 最早、エウレカがどうやって生者の世界に来たかなど、気にならなくなっていた。


「また、会えるかしら?」


 スピカは問う。

 エウレカは頷いた。


「あなたが死んだら、真っ先に会いに行ってあげるわ」


「本当?」


「本当よ。だって、友達でしょう?」


 エウレカの姿は薄れていく。

 輪郭が薄れ、色味が薄れ、やがて彼女の姿は跡形もなく消えてしまった。


 スピカは手を開く。

 そこに唯一残った、青い星屑。


 エウレカは確かにここにいた。


「奇跡でも起こったのかしら」


 などと呟きながら。

 スピカは来た道を戻って行った。


✩.*˚

『こぼれ落ちた星の雫』

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