兄弟
田村隆
兄弟
私は、一人の男を今殺そうとしている。
その男は、とても憎い奴だ。もちろん、一人の人の命を奪うという行為は決して褒められたものではない。
しかし、彼はそれだけのことを私にしたのだ。
まず私の紹介をしよう、51歳の小説家志望の男だ。
もちろん、私には本職は別にある。だが、いつかはこの仕事で食っていければと思っている。
そのため、毎日仕事が終わると小説を書いている毎日だ。
そんなある日、一つの小説が目に留まった。それは不思議なことに私が考え書いたものとよく似ていた。
その時は、私と同じことを考える人もいるものだと気にも留めなかった。しかし、名前を見た瞬間おやっと思った。
なぜなら、そこに書かれていたのが私の兄弟の名前だったからだ。
彼は私と同じ日に生まれ育った兄弟だ。ただ、彼は、仕事では失敗ばかりで小説を書いている私インドアな私とは違い会社で働き成功し多くのお金を得ていてアウトドアと正反対だった。
そんな彼は私にとって、うらやましく思うとともに生涯かなわないであろう存在だった。
もちろん、彼の前ではそのような姿を見せてはいない。
なぜなら、私のプライドが彼にかなわないというふうに見せるのを拒んでいるからだ。
そんな、私にとって小説を書くという行為は彼には出来ないことをやっていることを感じさせ優越感を持たせるのだった。
だから、彼のその行為は私の自尊心を揺らがせるに充分なものだった。
しかも、その小説の出来は私のそれとは違いとても良いものだった。
だが、私は、一つの疑問が芽生えたこんな同じ発想を彼がするだろうか?ということだ。
そう、考えると思考が止まらなくなり、もしかしたら、私の執筆ノートを見ているのではないかと思ってしまうのだった。
そんな考えを、打ち消そうと顔を冷たい水で洗っていると目の前の鏡に彼の姿が目に入った。
私が振り向くと母がタオルを持って立っていた。こんな時間に彼がいるのが珍しいので、どうしたのかと聞くと母は心配そうに私を見つめたのでそれ以上彼のことを聞くことが出来なかった。
私は、どうしても気になり彼を追って問いただそうとした。
ほどなく、彼に追いつくと私の疑問を彼に突きつける。
彼は私の問いに驚きつつも意味深な笑いを浮かべた。
私はその時自分の感情の沸点が上るのを感じた。そして、目の前の男を排除しなければならないと思った。
そして、彼の机の上にあったハサミを取り振りかぶると彼の胸にハサミを突き立てた。
すると、肉を切り裂く音と嫌な手応えが私の手に伝わるとともになぜかぬるぬるとした血が胸から流れた。
「係長、それにしても陰惨な現場ですね。」
部下に声をかけられ振り向くと多くの部下があまりにひどい現場の状況にある者は目を背けまたある者は吐いていた。
「君は大丈夫なのかね。私も吐きたいのを我慢しているのですよ」
部下は口をハンカチで押さえながら言った。
「私もこんなものを見て平気でいられないよ。それにしてもこの男自分で自分の胸をめった刺しにするなんてどういうつもりなんだろねぇ……」
兄弟 田村隆 @farm-taka
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