コンビニに行ってコピーしてアイスを食べる話

石田空

コンビニに行ってコピーしてアイスを食べる話

 まだ桜には早く、梅が見頃だとニュースでは行っているが、近所に梅の名所はない。

 深夜にパソコンで打ち込みを終え、印刷をする。世の中ペーパーレスを謳っているものの、データなんて壊れやすいものだけを信奉する気にはなれない。

 体をうーんと伸ばす。そろそろパソコンチェアーも古くなり、伸びをするたびに変な音がする。背もたれがバキッと折れたら困るから、そろそろ買い替え時かもしれない。

 そんなことを考えていたら、プリンターがプツーと変な音を立てた。紙は吐き出されない。

 あれ、プリンターが壊れたのかな。そう思って見ていたら、【紙が切れました。入れてください】と表示されていた。

 紙のストックあったかな。そう思って棚を漁ったものの、紙の替えが見つからない。

 マジか。近所で紙が売ってそうな場所……考えたものの、もう深夜だからどこも既に営業時刻は過ぎている。もう不貞寝して、朝一番に買いに行こうか。そう考えたものの、この仕事の納期は午前中までで、とてもじゃないけれど紙を買いに行っている場合じゃない。

 仕方がなく、プリンターに印刷中止の指示を出してから、データを全部USBに焼いた。

 近所のコンビニは潰れてしまったから、少し自転車を走らせないといけない。できる限り騒音で苦情を言われないよう気を付けながら、荷物を鞄に入れて戸締りをする。

 既に四月の気温と言われているが、陽の光の当たらない深夜だと未だに肌寒い。足を忍ばせながら、駐輪場へと向かっていった。


****


 自転車を漕ぐ。

 昼間に見慣れた街並みも、夜の誰もいない、車も通っていない時間帯だと違う世界に見える。

 猫が「ミャーン」と鳴いている。切れかかっている外灯がチカチカと不機嫌に点滅している。

 意外と面白いものだなと思いながら走らせていると、目的のコンビニが見えてきた。


「いらっしゃいませ」


 深夜のコンビニ店員があくびを噛み殺して挨拶をしてくれたのに会釈し、コピー機へと向かった。USBを差し込んで、プリンターから吐き出される紙を集めて持ってきたファイルの中に入れる。

 これで帰るのもお愛想なしだろう。そう思いながらアイスを眺める。昼間であったら、さっさと帰っていただろうけど、眠いのを堪えている店員さんを見ていたら、気の毒に思えたのだ。

 アイスの冷凍庫を眺めていたら、普段売り切れていてなかなか売っていない有名メーカーの高めのアイスが見つかった。電子ポイントがそこそこ貯まっていたから、それで買えるなと計算する。


「すみません、これください」

「袋どうされますか?」

「結構です」


 会計を済ませると、アイスを鞄の上のほうに乗せ、再び自転車を漕ぎはじめた。

 しばらく走っていくと公園が見えてきた。

 近所の公園は桜以外に、梅が生えている。ちょうど外灯で照らされて、はらはらと花びらが零れている。

 自分はベンチに自転車を停めると、ベンチに座る。ぼんやりと梅を見上げながら買ったばかりのアイスを頬張る。

 仕事に支障きたすせいで、こたつでアイスを食べる贅沢はできないけれど、深夜の誰もいない公園で、梅を独占しながらアイスを食べる贅沢はできる。

 書類仕事を終えたばかりの頭に、糖分はいい。

 朝一番の仕事のためにも、帰ったらすぐ寝ないといけないけれど、今だけはこの贅沢を楽しもう。

 誰もいない公園で、梅の香りが漂う。この贅沢は今だけのものだ。


<了>

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コンビニに行ってコピーしてアイスを食べる話 石田空 @soraisida

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