潮騒の響く波止場にて

@curisutofa

潮騒が響く波止場にて

『ザアッ、ザァアアアッ』


『日中は波止場地区での猥雑わいざつ喧噪けんそうされがちだけれど、夜には耳に心地好い潮騒しおさいが響くわね』


公衆浴場バーデ・ハオスに湯浴みに行く前に、日課となっている夜の散歩を波止場地区にて行っているけれど。


『今宵は当たりのようね』


波止場地区につらなる倉庫街の暗がりから、見るからにがらの悪い風体ふうていをした殿方達が現れると、私の前後左右を塞いで、獲物を前にした捕食者による下卑げびた笑みを揃って浮かべながら。


『道に迷ったかい。銀白色ズィルバー・ヴァイスの髪の毛の令嬢フロイライン♪』


『高そうなミスリルズィルバー製の髪飾ハール・シュムックりを付けているな。良い値で売れそうだぜ♪』


『カチャッ』


周囲を品定めをする下卑げびた目付きで眺める殿方達に囲まれた私は、腰に帯びている剣のつかに軽く触れて。


髪飾ハール・シュムックりだけで無く、この剣もミスリルズィルバー製よ。根元魔法で強度を高めているわね』


『ヒューーーッ♪』


私の話を聞いた殿方達の間から、嘲笑うような口笛が鳴り。


『今夜の俺達はつきが回っているようだ♪。大人しくミスリルズィルバー製の剣を渡しな、銀白色ズィルバー・ヴァイスの髪の毛をしたお嬢ちゃん』


『腰に剣を帯びてさえいれば、俺達みたいな男除けになると思っていたなら、考えが甘いぜ。お嬢ちゃん』


『そうそう。俺達みたいな親兄弟の居ない連中は、金目の物を奪う為なら、命を惜しまないぜ』


『ついでに朝まで可愛がってやるよ令嬢フロイライン。世の中の厳しさを知る為の社会勉強ってやつだ♪』


『ザアッ、ザァアアアッ』


『私達以外には、誰も居ないようね?』


他者の存在を確認した私の言葉を、助けを求めての行動だと勘違いした身の程を知らない賤民せんみん共は、勝利を確信した下卑げびた笑みを浮かべると。


『その通りだぜお嬢ちゃん。最近までは別の連中がここらを縄張りにしていたが、急に姿を消してな』


『裏社会の顔役と揉め事でも起こして、今頃は冷たい海の底で魚と仲良くしているんだろうな』


令嬢フロイラインも素直に服を脱がなければ、波止場の海の底で魚と仲良くするはめになるぜ』


露見はしていないようね。


『情報提供に感謝をするわ。お礼に同居人の金髪ブロンデス・ハールの彼のように、苦しめて嬲り殺しにするような行為は控えるわね』


『はっ?』


『何を言ってやが…』『ヒョンッ、ゴロッゴロッゴロッ、グラアッ』『魔法障壁マーギッシェ・バリエーレ展開』『ブシャアアッ』『バタンッ』


『ひっ、ひいいっ!』『いっ、いきなり剣を抜いて、一撃で首を切り落としやがった!』


『ザアッ、ザァアアアッ』


潮騒しおさいが響く夜の波止場地区にて、抜刀したミスリルズィルバー製の魔剣のつかを握る私は、腰が引けた賤民せんみん共に冷たい視線を送り。


『先程話をしていた、以前に波止場地区のこの辺りを縄張りにしていた集団を殲滅フェアニヒトゥングしたのは私よ。試し斬りの相手を探すには、夜には人気の無くなる波止場地区は格好かっこうの狩り場となるのよ』


女魔法使マーギエリンいかっ!』


ようやく私の正体に思い至った、愚鈍ぐどん賤民せんみんに対して冷ややかな眼差しを向けながら。


『正確には女魔法使マーギエリンいでもある女剣士フェヒテリンね。軍場いくさばが立つ際に身に寸鉄も帯びない事を誇りにしている、金髪ブロンデス・ハールの同居人である彼とは異なり、私は剣で他者の命を奪う戦い方を極める事にしたのよ』


『チャキッ』


『さあ、私の剣のかてとなりなさい。貴方達がこの世に生を受けた唯一の理由は、今宵私に斬り捨てられる為よ』


『『ヒッ、ヒィイイイーーーッ!』』


家畜が屠畜とちくされる際に上げる悲鳴にも似た叫び声を賤民せんみん共はわめいていたけれど、屠殺業者が家畜を屠畜とちくする際に何の感慨かんがいも抱かないのと同じで、数回剣を振り今宵私に斬り捨てられる為だけに生を受けた賤民せんみん共の命を一つ残らず全て刈り取ったわ。

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