荷物

田村隆

荷物

 敵が、私の周りにいることに気がついた。

 この任務に就いた時より、多くの困難に見舞われることは目を見るより確かだった。

 しかし、私にはその危険な任務に就かなければならない理由があった。

 私には、小さな娘がいる。まだ、5歳にもならない娘だ。

 その娘が、大きな病気にかかってしまった。元々、母親がいない父子家庭で私は貯金をする習慣はなく金はあっただけ使うという自堕落な暮らしをしていた。

 そんな私に娘の多額の治療費が必要になった。それも、私の普通の稼ぎでは想像もつかないほどの莫大な金額である。

 もともと、戦場で生まれて育ったので戦うより金の稼ぎ方を知らない私である。

 だから、今回の仕事を受けるのも当然の流れだった。

 もちろん危険じゃないとはいえなかった。しかし、ただ依頼人が言ったところによると荷物を運ぶだけで治療費にあまりある金が手に入る仕事だったため私は怪訝に思いながらも断るという選択肢はなかった。

 確かに、今思えば荷物を運ぶだけでこんな高額な金を払うなどどう考えても危ない橋を渡っていることは確かだった。

そんなことを考えていると、敵からの銃弾が私を現実の世界に戻す

(街中で銃を使用するということは相当やばい代物だろうか?)

と手榴弾が私の隠れていたところに投げ込まれた

「ちぇ、物が壊れても構わないのかよ」

 私は、今さっきいた場所が大きな音がしたところと身体に異常がないことを確かめた。

 奇跡的に異常はないが敵がさらに私の周りに近づいたことがわかった。

(ここまでか…………)

 私は、死を覚悟した。だが、病院で待っている娘のため私のプロとして矜持からただ死を受け入れるわけにはいかなかった。

私は、敵の銃撃が止まる瞬間を見越し目の前の敵へ突撃を敢行した。

敵は私が、突っ込んでくることに驚いているのが見てとれた。いけると思った瞬間後ろから大きな衝撃とともに鉛の玉が私の足にあたるのを感じた。

その痛みとともに私の持っていた荷物がはじけ飛ぶのが目に見えたそれが私の最後の瞬間だった。


その痛みとともに私の持っていた荷物がはじけ飛ぶとともに真っ赤な液体が飛び散るのが見てとれた、それが私の眼に映った最後の瞬間だった。

恰幅の良い男がグラスに赤い液体を注ぎながら。 

「それにしてもおそいですなぁ、閣下」

と言った。

「例のワイン手に入ったと聞いて、急いできたのに…………どうしたのです?」

大統領が残念そうに言葉をつなげる

「すいません」

と恰幅のいい男が頭を下げる。

「ワインは手に入ったのですが、どこでどう間違ったかわからないのですが、敵対勢力から新しい麻薬と思われてしまいまいして………それまでこれで我慢してください」

「」

恰幅の良い男は大統領にグラスを渡すと続けて

「そこでしょうがなく運び屋にワインの輸送を頼んだのですが…………」

「それにしても、今日はいつも以上に騒がしいですな」

「騒がしくても我々には関係のないことですよ。閣下」

「そうですな。騒がしければこうしてしまえばいいのですよ」

閣下はナイフで血が滴り落ちそうなステーキを切りながら言った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

荷物 田村隆 @farm-taka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ