扉の先に

ろくろわ

深夜の散歩

 私が深夜の散歩で見つけた扉には沢山の名前と一言「開けてください」と刻まれていた。

 そんな扉を見付けたら開けてしまうのが研究者と言うものだ。

 私は勢いよく扉を開くと中へ一歩進んだ。

 扉を抜けた先は先程と変わらない景色。

 そして後ろを振り返るとさっきの扉が無い。


 その日から私の不思議な生活が始まった。

 扉を開き何日も過ごした事で、この世界のルールが分かってきた。


 ルール 一

 新しい扉を開かなければ今日を繰り返す。

 ルール 二

 扉が現れるのは零時から二時までの間。

 ルール 三

 繰り返された世界は少しずつ変異していく。


 私は何度か現世に戻る扉を見付けて中に入った。その扉には「広げてください」と書かれている。扉が見つからなければ、今日とは少し違う変異した今日がやってくる。

 何度も「今日」を繰り返している私の周りでは既に猫は空を飛び、天気が悪いと空から大粒のリンゴが降ってくる。


 最初こそ必死に扉を探していたが、今はこんな世界を受け入れている。

 常識に囚われない世界。

 明日はどんな変異を見せてくれるのだろうか。


 私は深夜の町を散歩しながら世界の変異を見ていく。

 成る程、こうする事で半永久的にエネルギーを産み出しているのか。

 あぁ、宇宙との繋がりはここに帰結するのか。


 変異していく世界を深夜に散歩するのは新鮮であった。そして長い深夜の散歩の果てに私は新たな扉を見つけた。

 だが今日の扉はいつもと違う。

「名前を刻んでください」


 そうか。と呟く。

 名残惜しいが私は扉に刻まれている沢山の名前の下に自分の名前を足した。


 この扉を通るとまた普通の世界に戻る。

 そして二度とここには帰ってこれない。


 私は私の此処での役目を終えたのだ。







「今、世界で始めてエネルギーを半永久的に生み出す理論が日本人の手によって発表されました。これが認められれば、その名を歴史に刻みます」



 扉には常識に囚われなかった偉人達の名前が刻まれていた。




 了

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扉の先に ろくろわ @sakiyomiroku

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