第2話 聖女、やめさせていただきます。

 私は聖女ミレイア。勇者・聖女養成学校エクセン校のパーティー会場で、婚約者のレドリー王子に、婚約破棄こんやくはきを言い渡された。しかも、聖女をやめろ、と言われ、クラスメートのジェニファーには、「エクセン王国から出て行け」とも言われた……。


(このままでは、エクセン王国はほろんでしまう!)


 私の結界がなくなったエクセン王国は、魔物が侵入し、滅亡めつぼうするだろう! 何とかしないと!


「ジェニファー、あなたのアイデアは認めます!」


 私は必死に、ジェニファーに言った。


「しかし兵士だけではかなわない、怖ろしい魔物もいるのです。きちんとした結界でなくては、魔物の侵入しんにゅうは防げない!」

「うるっさいのよ、この無表情女が!」


 ジェニファーは声を荒げた。


「結界とか、もう古いっつーの! これからは、兵士が実際に魔物と戦う時代よ!」

「それでは、エクセン王国が大変なことになる! 結界だけは張らせてください!」


 ガス!


 ジェニファーは、私の足を蹴った!


「い、いたぁ……」

「生意気なのよ! いちいち、あたしに指図してんじゃないよ!」

「け、結界が無くなれば、魔物たちが侵入しんにゅうしてきます。エクセン王国は大変なことになります」


 私が必死に言うと、レドリー王子は笑って言った。


「心配は無用だ。兵士たちは久しぶりに魔物と戦えると、奮起ふんきしている。それに、ジェニファーは学校の成績も1番。頭も良い。軍師ぐんしになれるくらいだと思う」


(いやいやいや、それは……!)


 それは学校の成績であって、このエクセン王国を守る仕事とは、ほとんど関係がない!


「さあ、ミレイア。君はもう邪魔だから、パーティー会場から出ていけ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「もうこの国には、聖女という役職の者はいないということになっているんだ」


 レドリーは冷たく言った。


「そうそう、退職金として、君の口座には2万ルピーほど入れておいた。学生だから、そんなもんでいいだろ」


 服を一着買ったら、使い切ってしまうくらいの値段。

 私の価値はそんなモノだったのか。


「またイライラして、他の子の背中を蹴っ飛ばさないようにね! あんたは最悪の性格なんだからさ~。いいから、さっさと出てけ! バーカ!」


 ジェニファーはケラケラ笑った。さっき、私の足を蹴っておいて、何を言っているの? 


(こいつだ。私の悪いうわさを流したのは)


 もう、こんな国にいてもしょうがない。私は父も母も家族もいない。明日、この国を出ていこう……。


(……学校もやめて、普通の少女として旅立とう)




 私は、追い出されるようにして、パーティ会場を出た。


「ミレイア様!」


 すると、後輩の女生徒たちが、私の後を追ってきた。


 私が聖女として仕事をする時、協力してくれる女の子たちだ。3人いる。


 レイラ、ユウミ、サラ……。


 私と魔力の質が似ているので、2年前から、私が結界を張るときに、協力してくれるようになった。3年前は、宮殿の魔法婆様まほうばあさまたちが、結界張りに協力してくれていた。しかし、婆様ばあさまたちは、若い彼女たちにエクセン王国の将来をまかせ、私に協力するように言ったのだ。


「ミレイア様! 私たちは、あなたの結界が今まで、このエクセン王国を救ってくれていたことを、知っています!」


 レイラは、そう叫んで、私を抱きしめてくれた。


「レドリーやジェニファーの言う話なんて、真に受けてはいけません。結界を作れる聖女は、絶対に、この国に必要な役職です! つまり、あなたが必要なんです、ミレイア様!」

「レイラ……」

「そうですよ!」


 ユウミも声を上げた。


「レドリーやジェニファーの言っていることはおかしいです。結界があるから、今まで1匹も魔物をこの国に侵入しんにゅうさせなかったのです。あの二人、聖女という仕事をなめていますよ!」

「ミレイア様、どうかやめないで! この国から出ていかないで!」


 最も年下の15歳、サラも泣いている。私はサラの頭をなでた。


「サラちゃん、仕方ないのよ。王子のレドリーに嫌われてはね」

「でも、この国は……ほろんでしまう。ミレイア様の結界がないと……」


 ユウミが心配そうに言ったが、私は宣言した。


「私は、この国で結界を張るのをやめます。でも、あなた達は、新しい指導者のレドリー王子とジェニファーのお手伝いをしなさい」

「ああ……ジェニファーではダメ。彼女は結界も張れないだろうし、兵士の指導なんて、いままでしたことがないはずです」

 

 サラが胸の前で手を組んだ。しかし、私はしかるように言った。


「三人とも、とにかく、レドリーとジェニファーを支えておあげなさい」

「ど、どうして!」


 レイラが声を上げた。


「どうして、ミレイア様は、二人をゆるすの?」

「ゆるしてなんかいませんよ」


 私はきっぱり言った。


「厳しいようですが、レドリーとジェニファーは、現実を知らないといけません。これから先、この国がどうなるか、見なくてはならないのです。三人共、もし、兵士たちが魔物を防ぎきれないようなら、この国をお逃げなさい。ご家族と一緒に、逃げる準備をしておきなさい」

「ミレイア様!」


 三人は、私に抱き付いた。


「私は、この国を出て行きます」


 私は言った。


「そして、別の国で暮らします。三人とも、後をお願いね」


 三人はすすり泣いていた。なんて可愛い女の子たちなんだろう。


 私は三人を抱きしめてあげた。


 私は、その日、聖女をやめた。

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