第2話 聖女、やめさせていただきます。
私は聖女ミレイア。勇者・聖女養成学校エクセン校のパーティー会場で、婚約者のレドリー王子に、
(このままでは、エクセン王国は
私の結界がなくなったエクセン王国は、魔物が侵入し、
「ジェニファー、あなたのアイデアは認めます!」
私は必死に、ジェニファーに言った。
「しかし兵士だけではかなわない、怖ろしい魔物もいるのです。きちんとした結界でなくては、魔物の
「うるっさいのよ、この無表情女が!」
ジェニファーは声を荒げた。
「結界とか、もう古いっつーの! これからは、兵士が実際に魔物と戦う時代よ!」
「それでは、エクセン王国が大変なことになる! 結界だけは張らせてください!」
ガス!
ジェニファーは、私の足を蹴った!
「い、いたぁ……」
「生意気なのよ! いちいち、あたしに指図してんじゃないよ!」
「け、結界が無くなれば、魔物たちが
私が必死に言うと、レドリー王子は笑って言った。
「心配は無用だ。兵士たちは久しぶりに魔物と戦えると、
(いやいやいや、それは……!)
それは学校の成績であって、このエクセン王国を守る仕事とは、ほとんど関係がない!
「さあ、ミレイア。君はもう邪魔だから、パーティー会場から出ていけ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「もうこの国には、聖女という役職の者はいないということになっているんだ」
レドリーは冷たく言った。
「そうそう、退職金として、君の口座には2万ルピーほど入れておいた。学生だから、そんなもんでいいだろ」
服を一着買ったら、使い切ってしまうくらいの値段。
私の価値はそんなモノだったのか。
「またイライラして、他の子の背中を蹴っ飛ばさないようにね! あんたは最悪の性格なんだからさ~。いいから、さっさと出てけ! バーカ!」
ジェニファーはケラケラ笑った。さっき、私の足を蹴っておいて、何を言っているの?
(こいつだ。私の悪い
もう、こんな国にいてもしょうがない。私は父も母も家族もいない。明日、この国を出ていこう……。
(……学校もやめて、普通の少女として旅立とう)
◇ ◇ ◇
私は、追い出されるようにして、パーティ会場を出た。
「ミレイア様!」
すると、後輩の女生徒たちが、私の後を追ってきた。
私が聖女として仕事をする時、協力してくれる女の子たちだ。3人いる。
レイラ、ユウミ、サラ……。
私と魔力の質が似ているので、2年前から、私が結界を張るときに、協力してくれるようになった。3年前は、宮殿の
「ミレイア様! 私たちは、あなたの結界が今まで、このエクセン王国を救ってくれていたことを、知っています!」
レイラは、そう叫んで、私を抱きしめてくれた。
「レドリーやジェニファーの言う話なんて、真に受けてはいけません。結界を作れる聖女は、絶対に、この国に必要な役職です! つまり、あなたが必要なんです、ミレイア様!」
「レイラ……」
「そうですよ!」
ユウミも声を上げた。
「レドリーやジェニファーの言っていることはおかしいです。結界があるから、今まで1匹も魔物をこの国に
「ミレイア様、どうかやめないで! この国から出ていかないで!」
最も年下の15歳、サラも泣いている。私はサラの頭をなでた。
「サラちゃん、仕方ないのよ。王子のレドリーに嫌われてはね」
「でも、この国は……ほろんでしまう。ミレイア様の結界がないと……」
ユウミが心配そうに言ったが、私は宣言した。
「私は、この国で結界を張るのをやめます。でも、あなた達は、新しい指導者のレドリー王子とジェニファーのお手伝いをしなさい」
「ああ……ジェニファーではダメ。彼女は結界も張れないだろうし、兵士の指導なんて、いままでしたことがないはずです」
サラが胸の前で手を組んだ。しかし、私は
「三人とも、とにかく、レドリーとジェニファーを支えておあげなさい」
「ど、どうして!」
レイラが声を上げた。
「どうして、ミレイア様は、二人をゆるすの?」
「ゆるしてなんかいませんよ」
私はきっぱり言った。
「厳しいようですが、レドリーとジェニファーは、現実を知らないといけません。これから先、この国がどうなるか、見なくてはならないのです。三人共、もし、兵士たちが魔物を防ぎきれないようなら、この国をお逃げなさい。ご家族と一緒に、逃げる準備をしておきなさい」
「ミレイア様!」
三人は、私に抱き付いた。
「私は、この国を出て行きます」
私は言った。
「そして、別の国で暮らします。三人とも、後をお願いね」
三人はすすり泣いていた。なんて可愛い女の子たちなんだろう。
私は三人を抱きしめてあげた。
私は、その日、聖女をやめた。
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