平凡そうで平凡でない鳥の一日
奏詩~kanata~
その鳥、出立。
朝、軽快な音でふと目が覚める。
他県に住んでいる人達であれば体操の音楽?いや、どこかの校歌だろうかと思う程の淡々とした爽やかな曲。
「…さわやかさん!?ヤバイ!遅刻する!!」
飛び起きた彼はR.B.ブッコロー。
言わずと知れた大人気YouTube【有隣堂しか知らない世界】のメインMCを務める《鳥》だ。
鳥と一言で表現しているが、彼はただの鳥ではない。
ミミズクなのに競馬好きで良く喋り、ツッコミは朝飯前…まさに冗談で出来上がっているような鳥。
家から物凄い勢いで飛び出すと横浜の街の空を凄いスピードで飛んでいく。
海からほど近いせいか身体を切る風は潮が混じったような香りで湿った空気がまた今日もこの街を飛んでいるのだと言う気分にさせる。
「満員電車より遅刻しそうな時はやっぱり飛ぶに限るわ。」
そう言いながら鳩の群衆を横目に辿り着いたのは、有隣堂伊勢佐木町本店。
「おはようございまーす。」
息を整えながら平静を装っていつものように軽く挨拶をする。
見慣れた6階のフロアはこれから収録だけあって機材がセッティングされほんの少し緊張感を感じる雰囲気だ。
「あ、あはようございます。」
その緊張感が和らぐような声でそこにいた女性は優しく笑いかけて来た。
有隣堂の広報担当郁さん、日々忙しいだろうに収録の時は必ず立ち会っている仕事熱心な人だ。
「ブッコローちゃん今日の収録なんですけど…。」
少し気まずそうにそう切り出して来ると、チラリとPを見た。
「収録期間的に何回も集まれないから、今日の収録は3本まとめてやるから。」
郁さんに代わってハヤシユタカPがサラっと言った。
「はぁ!?」
「いや、ブッコローも忙しいだろうから。」
「いやいやいやいやいや…先に言ってよP~っ!!今日は完っ全に1本取ったら帰って明日のレースの予想ゆっくりするつもりだったんだから!」
大きなくちばしと羽をバタバタさせながらブッコローは駄々っ子のようにPに言う。
「大丈夫、ほら。3本って言ってもすぐ終わるから。」
ブッコローは大きな溜息を吐いた。
Pがこう言ったら従う以外の選択肢がほぼないからだ。
「…今日は誰とやるんですか?ってかゲストいるんでしたっけ?」
「いないいない。だからすぐ終わるって、今日は岡崎さんと間仁田さんと大平さん。」
「詰んだな…。」
間髪入れずにブッコローは言った。
天然岡崎さん、ボケ倒す間仁田さん、そして制御不能な雅代姉さん。
どこをどう取っても早く帰れる予感はゼロである。
先月打ち合わせの時にその3人だけは一緒の日に収録しないでくれと念を押したのにとブッコローは心の中でそっと思った。
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