酔いをさますため深夜に散歩してみたら……
野林緑里
第1話
男は久しぶりにお酒を飲んだためにすっかり酔っぱらっていた。
翌日は仕事のためにどうにか朝までに酔いを冷ましたかった男は、深夜に近所を散歩することにした。
外にでると少し肌寒い。
田舎町であるために外灯はまばらについているだけで男の足元を照らすものはなにもなかった。
酔いがさめないために足取りは悪い。
いつそのまま倒れてしまうかわからない状態でありながら上機嫌に鼻唄を奏でながら歩いていた。しかし、何を思ったのかふいに足を止めたかと思うと、突然踵を返すと走り出した。
もちろん泥酔している状態であるためにすぐさま彼の足は縺れて転倒してしまう。それでも男はすぐさま立ちあげろうとして再び転んでしまった。
もう立つのをあきらめたのか。男は座ったまま後方をゆっくりと振り返る。
男の顔色は悪い。
先ほどまで酔っぱらって上機嫌だったはずの男の顔はひどく驚いている。
その瞳は一点を捕らえたまま動かそうとはせず、体だけが後方へと下がっていく。
驚いていたはずの男の瞳はとてつもない後悔した顔へと変わる。そのまま、足を揃えて土下座した。
その直後、男の頭に衝撃が走るとともに、横へと倒れこむ。男の鼻から血が流れる。その衝撃のせいですっかり酔いがさめてしまったのはいうまでもない。
男が顔をあげるとそこには“鬼”がいた。
“鬼”は男を睨み付けている。
男は顔面蒼白になり、震えたまま動けなくなってしまった。
「今日は早く帰るっていってなかったかしら? なに酒の臭いをさせているのよ」
「いや、その……」
男は苦笑いを浮かべる。
「ごまかすな! 今日は結婚記念日だから早く帰るといったのはあなたでしょ! もういいわ! もう一生帰ってくるな!」
そういって“鬼”、いや男の妻は男の顔にもう一発蹴りを食らわすとそのまま家の中へ入っていった。
「ごめん!入れてくれよ~。愛してるよ。だからいれてください」
男は鍵のしめられてしまった玄関を叩きながら懇願したのであった。
酔いをさますため深夜に散歩してみたら…… 野林緑里 @gswolf0718
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