午前2時のできごと
狐付き
深夜の神社で
初めての深夜の散歩だ。
中学に入り、ある程度夜に出歩いてもよいと言われたが、さすがに深夜出回ることは許されなかった。
だけど今日は両親がいない。ならばと普段できないことをやってみようと思った。それが深夜の徘徊だ。
なんというか、少し大人になった気がする高揚感と、夜間出回る恐怖……まあ、怖いというか、警察に見つかり補導され、親にバレたらどうしよう程度のものだ。
夜の街は思った以上に静かだった。住宅地の奥のほうだからというのもあるだろう。車の音もほとんどしない。そして街灯は意外と心許ない。夜歩いていて明るいと思ったのは、家の明かりがあったからだと実感できる。
こうなると、もっと暗がりへ行ってみたくなる。少し行ったところに神社があったのを思い出し、そこへ行ってみよう。
マンガとかだと妖怪みたいなのがうようよしているものだが、神社って神様の社だろ? なんでそんなものが平気で闊歩しているんだと。神も妖怪も信じていないが、もしいるのなら神域に妖怪が入れるとは思えない。まぁ、マンガはただの物語だってことだ。
神社は想像通り暗かった。外の街灯の明かりがわずかに入り込んでくるが、足元を照らしてくれるほどじゃない。空を見上げると、いつも以上に星が見える気がした。
ふと本殿のほうから音がすることに気が付いた。よく聞いてみると、獣の唸り声のようだった。
野犬? いや聞いたことない。狐……じゃないな。あいつら実は結構かわいい声で鳴く。イノシシや熊? あいつら最近街にも出没するらしいじゃないか。イノシシならまだしも、熊はやばい。あいつら木にも登ってくるらしいから、イノシシに使える逃げ場が有効じゃない。そもそもタッパがあるから登ってる途中で捕まる可能性がある。
だけど好奇心で、その正体を知りたくなった。音のするほうへ恐る恐る近寄る。それで、音がはっきりわかる位置で気付いた。これはいびきだ。なんだ、ただ酔っぱらったおっさんが途中で寝込んだだけか。
幽霊の正体見たり枯れ尾花ってやつだ。
少しがっかりしつつ、足取り軽くどこのおっさんだと確認しに近付いた。
だけどそこにはおっさんはいなかった。
月明かりに照らされて見えた、いびきをかいていたのは、短い蛇のような生き物だった。
「つ、ツチノコ!?」
思わず叫んでしまった。するとそいつは目を覚まし、シャーという音を立てながら飛びかかってきた。
気付いたら大量の汗をかき、息が切れる寸前で家の玄関に立っていた。よかった。逃げ切れたんだ。
でもまさか、こんな街中にいるとは思わなかった。これみんなに言っても嘘つき呼ばわりするだろうな。
でも今日、確かに見たんだ。いつか誰かに信じてもらいたいな。
3日後、ツチノコ捕獲のニュースが普通に流れていた。何故かちょっとくやしかった。
午前2時のできごと 狐付き @kitsunetsuki
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