俺と芹沢と
うり北 うりこ
深夜の散歩で鍵を落としたら
鍵を落とした。しかも、深夜に。
誰だよ、こんな夜中に散歩に出かけた阿保は。俺だよ、俺!
仕方ない。実家に電話でも……、って携帯は家だ。財布もなく、今持っているのはポケットにたまたま入ってた30円のみ。……詰んだ。
えーっと、どうする? 探すか? いやいや、こんな夜更けに探しても見つかんねーだろ。
家の前にいてもどうしようもないが、行く宛もない。しかも、所持金30円。
「明日は仕事だしなぁ……」
そう呟けば、ある人物を思い出した。同期のみんなで家にお邪魔したことのある人物を。
「いやいやいやいや。だって、あいつ俺のこと嫌いだし」
いつも遠くから睨み付けてくるくせに、話しかけると視線も合わない目付きの悪い男。自分が何をしでかしたのかも全く分からない。入職当初はよく二人で呑みにも行ってたが。
「俺はあいつのこと好みなんだけどな……」
ぼそりと呟いた本音に自分で苦笑する。
「もう嫌われてるんだ。これ以上悪化することもないだろ。何よりスーツ貸してもらえねーと、仕事も行けないしなぁ」
自分に言い訳をしながら、ゆっくりと歩きだす。
ピンポーン、ピンポーン
ピポピポピポピポ……
「うるっせぇ! 何時だと思っ……」
「よぉ、芹沢。入れてくれ」
固まってる芹沢の脇をすり抜けられなかったため、ぶつかって無理矢理通って中に入る。
「おい、ちょっと待っ……」
「鍵落としちゃってさー。携帯も財布も家なんだわ。泊めてくれ」
「はぁ!?」
「だから、泊めてくれ」
「いや、他に行くとこ……」
「ない!」
「マジ?」
「マジ」
あー、黙っちゃったか。しっかし、視線合わねぇな。
「目ぐらい合わせろよ」
顎を掴んで無理矢理視線を合わせれば──。
いや、おい。マジかよ。そういうこと? ってことは俺のこと睨んでたんじゃなくて……。
「なぁ、芹沢。まだまだ朝まで時間はある。ゆっくり話すとしようか?」
俺がニヤリと笑えば、芹沢は視線をそらした。
俺と芹沢と うり北 うりこ @u-Riko
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