カミングアウト深夜

山本アヒコ

深夜の出来事

「ふふふ~ん」

 深夜の道を若い男性が鼻歌まじりに歩いていた。頬に赤みがあって酔っているようだ。

「ちょっと飲みすぎたか~?」

 彼は一人家で晩酌をしていたのだが酒がなくなり、それを買いにいくついでに軽く酔いを覚まそうと深夜の散歩をしていた。

「うん?」

 街灯の下に何者かが立っていた。背が高く男性のようだ。

「お待ちしていました、我が君」

 男にしては高く美しい声の男は、手を胸に当てて頭を下げた。

「は?」

 若者が間抜けな声を出したのは、男の格好があまりにも場違いだったからだ。黒いタキシードにループタイというだけならまだいい。男はさらに地面に触れてしまいそうなほど長いマントを身につけていた。

「ええ? ハロウィンは今日じゃないような」

「突然のことで驚かれているでしょうが、時間がありません。あなた様を狙っている者たちが迫っています。私はあなた様を守るために来ました次第です」

「意味がわからん」

「あなた様はヴァンパイア一族の高貴なる血族に連なる方なのです。その身に宿る血を狙われています」

「なにそれ」

 突然の出来事に混乱していると、男の目が大きく開く。

「危ない!」

 まるで瞬間移動したかのように若者の元へ出現した男は、マントで飛んできたナイフを防いだ。

「なになになに!」

「嗅ぎ付けられたかっ」

 電柱の上に誰かが立っていた。白く長いコートのようなものを着ている。金色の長髪で彫りの深い顔は外国人のようだった。

「神に仇なすヴァンパイアどもが。塵に還れ」

「英語だからわからん。日本語でたのむ」

 若者の言葉は無視された。白コートが腕を振るとまたナイフが飛んでくる。

「我が君、逃げますよ」

 マントで防ぎながら振り返ると、そこに若者の姿はなかった。

「いったい何が起こってるんだ?」

 若者が風で乱れる。高速で移動しているからだ。

「今しばらく我慢してください」

 若者は男に体を抱えられて、建物の屋根の上を移動していた。男がジャンプすると、人を抱えているのに十メートル以上も離れた場所へ着地する。

 若者が横目で男の顔を伺うが、覆面で顔は見えない。男は全身を黒装束に包んでいた。いわゆる忍者服である。

「実はあなたは我が忍者一族の血をひいているのです。それが敵対する者に知られてしまい、その命が狙われているのです」

「まじで?」

 ヴァンパイアだけでなく忍者も親戚らしかった。

「ぐあっ!」

 突然、忍者男が悲鳴をあげた。腕に手裏剣が刺さっていた。そのせいで若者の体を離してしまう。

「うわああああ!」

 ビルからビルへ飛んでいる途中だったので、このまま落ちてしまえば確実に死んでしまう。

 すると、突然空から明るい光が若者へ向かって照射された。

「わああああ……って、あれ?」

 若者の体は空中で静止していた。さらには空に向かって上昇していく。そのまま彼の姿は雲のなかに消えてしまった。

『アナタハ、イマカラ4000ネンマエニ、チキュウニフジチャクシタ、ワレワレトオナジイデンシヲモッテイル』

 若者は、全身灰色の肌で頭が大きく、異様に大きな黒い両目を持つ生物たちに囲まれていた。

「俺、宇宙人の血も引いてるの?」

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カミングアウト深夜 山本アヒコ @lostoman916

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