【KAC20234】緊急の呼び出し

amegahare

夜の空気

空には雲が一つもなく、空気は澄んでいる満月の夜だった。

耳を澄ませば、虫たちのオーケストラが聴こえてくる。


「深夜だけど、散歩にいくか」

スマホと財布をポケットにいれて、僕はスニーカーを履いて、玄関を出た。


街灯に照らされる道路。

夜風と一緒にダンスする草や木や花たち。


特に目的地はない。

「せっかくなので、普段とは違う場所に行ってみるか」

僕はそう呟いて、気分にまかせて、街を巡ることにした。

深夜の街の表情は、昼間の街の表情と違って、どこか他人行儀の雰囲気だ。

きっと、人々が眠っているからに違いない。


池のある公園に来てみた。

「子供の頃に、よくここに来たの覚えてるよ。懐かしいなぁ」と、僕は心の中で呟き、ブランコを探してみる。

ブランコは公園の隅にひっそりと置かれていた。

「久しぶりにブランコに乗ってみるか」

ブランコのチェーンを手で持つと、ひんやりとした触感が伝わってくる。

まるで僕の身体の体温をブランコに分け与えているようだ。

「失礼します」と、僕はブランコに語りかけて、ブランコの座板に自分のお尻を置いた。


ブランコの座板に自分の体重を移していく。

そして両足をゆっくりと浮かす。

「地面からの解放だな」

やや大げさな表現をして、この状況を楽しんでみた。

深夜の公園で一人の青年がブランコに乗っている光景は他人からどう映るのだろうか?

そんなことを考えながら、ゆっくりとブランコを漕ぎ出す。

両足を前後に振ることで、徐々にブランコは円弧軌道を描いていく。

僕の身体はブランコの揺れと同期して、前後にゆっくりと揺らされる。

頬に当たる風を感じながら、ブランコを漕いでいく。

「楽しいな」

ブランコに乗ることがこんなに愉快だなんて、すっかり忘れていた。


ブルルッ!

深夜の静寂を破って、僕のスマホが鳴る。

そして、指令が伝えられる。

「怪獣が出現したから、出撃せよ」

やれやれ、今夜も長い夜になりそうだ。

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