殺人無農薬
猫又大統領
殺人無農薬野菜
電車で揺られ、揺られてここまで来た。田舎で暮らす恩師の奥様とは恩師が数年前に亡くなられてからも変わらず交流が続いている。奥様はひとりになってからは家庭菜園を始めていて、その規模は家庭の域を超えているように私には見えた。無農薬、こだわりの有機肥料を使い野菜を育てている。
普段は半年の1回くらい間を開けてお邪魔をするのだが、今回は2ヶ月しかたっていかった。その理由は飼われている愛犬が数日前に倒れ、連絡を受けた私に電話越しからもわかるほどひどく憔悴している様子だった。
私はそれを黙っていることはできずにその連絡を貰ってすぐに有休を取り、今日やってきた。
「ハナヨさんは……」
「元気になったの。最初は本当に……急に倒れて……私、私どうしていいか……」
「それは心配でしたね……回復されたようでよかった」
僕は窓からハナヨが蝶と追いかけっこをしているのを視界入れると安堵した。
とても元気で毛並みも前よりもよくなっているように見えた。
「わざわざ来てくれてありがとうね。そうだ、ご飯まだでしょ。特製カレーを作っから食べていって」
「いいんですか。是非」
大変グルメな恩師の胃袋を掴んだ奥さんの料理はやはり、とてもおいしい。お宅の扉を開けた時から僕は正直、カレーの匂いが気になってはいたのだ。愛犬も健在なことを確認したので遠慮なくいただくことにした。
「はい。召し上がれ」
出されたカレーは、こだわりの菜園からとれた野菜たちのカレーだった。
「ありがとうございます。私は何もしてないのですが……」
「いいわよ。来てくれるだけでうれしわよ。主人も喜んでいるわ」
「そういえば、ハナヨが倒れた原因はなんだったんですか?」
「それがね、不思議なのよ。私のカレーを食べただけなのにね。今日もその時と同じ食材よ。味付けもまったくいっしょなのよ!」
僕はカレーをぐちゃぐちゃに混ぜた。
そして、飲み込んだ。
殺人無農薬 猫又大統領 @arigatou
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