女戦士たち
第47話 女戦士たち ~穂高 1~
森へと向かい、足を進めてすぐに、中央へのルートからざわめきが響いてきた。
「なにかあったのか? まさか麻乃が……」
「行こう。麻乃だとしたらまずい」
小坂に洸と茂木を頼み、穂高はレイファーを連れ、修治と鴇汰のあとを追った。
ルートには修治と麻乃の隊員の他にジャセンベル兵が大勢、あわてた様子で中央へと向かっていた。
車も数台、走り抜けていく。
梁瀬の術が放たれたなら、あんなにあわてることはないはずだ。
ただならぬ様子に穂高は不安を覚えた。
「安部隊長! 一体、今までどこに!」
「すまない、いろいろあった。それよりなにがあった?」
修治に気づいてこちらへ駆け寄ってきたのは、修治の部隊の川崎だ。
川崎は穂高に目を向けると、一瞬表情を強張らせた。
「それが……東区に襲撃があったと……火の手が上がったそうです」
「馬鹿な! この島に火をかけるなんて、同盟三国のやつらはなにを考えてるんだ!」
レイファーが驚いてそう言った。
以前、ピーターと話したときにも泉翔に火を使うことはないと言っていた。
なにもない島がほしいのではない、と。
「それで? 現状はどうなってる?」
「東区へは手練れを配備してますが、泉の森と違って結界がありません。数によっては危険です」
「……それはいつの話しだ?」
「連絡が入ったのはつい今しがたです。ですが、ここからは応援に出られるほど頭数が……」
東区が全く無傷であるとは思っていない。
手練れを配備しているというのなら、全滅するようなことにはならないだろう。
そうは思っても、火が出たことがまずい。
それに、梁瀬の術で敵兵の暗示が解けても襲われているのであれば、それは自らの意思を持って侵略を試みている兵たちだ。
それを相手に比佐子がどれだけ立ち回れるかと思うと、不安が過り、平静ではいられない。
「東はマズイぞ……しかも火の手が上がったなら、場所によってはみんな逃げ道がなくなる……」
「川崎、急ぎ何人かを集めて、おまえが向かってくれるか? あとのことは俺が……」
修治がそう申し出たのを遮って、レイファーが穂高の腕を引いて前に出た。
「その必要はない。ジャセンベルの兵を連れて、俺が上田とともに向かおう」
「いや……そういうわけには……俺はこのまま……」
「そんなことを言っている場合か! 誰かが向かわなければならない。他からも向かえるかわからないなら、おまえこそが行かなければならないだろう! 楽観視するなと言ったはずだ!」
「だから、それは大丈夫だと俺も言ったはずだろう」
レイファーは穂高の言葉に全く取り合わず、すぐにどこかへ式神を飛ばすと通り過ぎていくジャセンベル軍の一人を捕まえて、部隊を組ませるように言い含めた。
船の中で比佐子の話しをした。
それを気遣ってのことなんだろうか。
ただ、あんなにも麻乃にこだわっていたレイファーが、この場を離れると言い出すとは思っても見なかった。
「上田は借りていくぞ。東側のことはこっちに任せろ。その代わりおまえたちは必ず藤川を取り戻せ」
「おまえに言われるまでもねーよ! 俺たちは最初からずっと、そのつもりでいる!」
「穂高を頼む。東区はここからは真逆だが、抜け道はある。正規ルートより早くたどり着ける」
「ちょっと待ってくれないか、こんなときだからこそ、俺は私情を挟みたくない。向こうでも対応し切れるはずだろう?」
「私情云々というのなら、鴇汰のやつが一番挟んでいるだろう。それに東区に対応しているのはほとんどが一般人だ。穂高が行ってくれれば俺たちも助かるんだ」
その言葉に弱りきって鴇汰を見た。
鴇汰も修治に私情を挟んでいると言われてバツが悪いのか、洸から受け取った皮袋に鬼灯を納めながら、苦笑いで行けというように顎をしゃくった。
レイファーの指示で集まったジャセンベル兵はかなりの数だ。
しかも車まで準備されている。
こうまでされては、穂高も断れない。
ここはありがたく従わせてもらうことにした。
「じゃあ……すまないけど東区へ向かわせてもらうよ」
「ああ。頼む。敵兵を退けたら、そのあとは中央へ向かってくれ。元蓮華の加賀野さんが取り仕切ってくれている。他の浜から集まったやつらと合流して、次の手順を確かめておいてくれ」
「わかった」
レイファーが用意した車に乗り込み、そう返事をすると、すぐに車が走り出した。
ハンドルを握っているのはレイファーだ。
遠ざかっていく鴇汰たちの姿は、あっという間に見えなくなった。
後ろにはレイファーが集めた部隊が連なっている。
「上田、最速で向かうぞ。案内を頼む」
「とりあえず、しばらくはこのまま進んでくれ。途中、脇道へ逸れる。道は単純だ、スピードは落とさずに行ける」
うなずいたレイファーはアクセルを踏んだ。
先へ進むほど、ロマジェリカ兵の姿が増えていくけれど、レイファーはまったく気にも留めず、時に敵兵を跳ね飛ばした。
躊躇しない姿を頼もしくも感じるけれど、また荒い気性が垣間見える気がして運転するレイファーの横顔を、黙ったまま見つめた。
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