第67話 秘密 ~穂高 4~
「そう言ってくれて安心したよ」
「約束は必ず守ります。だから理由を聞かせてください」
「危険だからここから出るなというのはわかりますが、鴇汰に私たちがいることを、秘密にしなければいけないのはなぜなんですか?」
巧もそれが一番気になるようで、穂高のあとを継いでクロムを見つめている。
「先に最初の問いに答えることにしようか」
開けた窓はそのままにカーテンだけを閉めると、クロムはさっき鳥が入っていったドアへと歩いていき、穂高たちが目を覚ました部屋のほうを覗き込んでいる。
「もういいのかい?」
「はい。僕はもう。ゆっくり休ませてもらいましたから」
銀髪の女性に支えられて、ドアの向こうから梁瀬が現れた。
見た目はなにも変わらず元気そうだ。
「梁瀬、無事だったか」
徳丸の大きな溜息に、梁瀬はクスリと笑うと
「現状、僕らの中で一番無事じゃないのはトクさんだよ」
そう言ってクロムの席の隣へ腰を降ろした。
隣にいる巧が穂高の肘を突き、身を寄せてくると小声で囁いた。
その目は女性に釘づけになっている。
「ねぇ、銀髪の女性……岱胡の言ってたのって、もしかして彼女かしら?」
「あぁ、そう言えば……うん、鴇汰に確認を取ったんだよ、叔父さんの式神だと言っていた」
「式神? だって人にしか見えないじゃないの」
ヒソヒソとやり取りをしていたのが全部聞こえていたのか、ドアを閉めながらクロムが大笑いをした。
「見られていたんだって? あの島には、結界が無効な相手がいることをすっかり忘れていてねぇ、鴇汰くんに散々文句を言われたよ」
テーブルの上を片づけ、改めて新しいカップを並べると、今度は温かいスープを出してくれた。
こういうマメさは鴇汰と同じだ。
「疑っていたようだけれど、このとおり彼は無事だよ。傷は塞がったかな?」
「はい。大丈夫です」
そう言えば最初に聞いたのは梁瀬のことだった。
穂高はなにも思っていなかったけれど、姿がないことで巧と徳丸はクロムの言葉に疑問を感じていたのかもしれない。
目を覚ましてから傷の手当てを受け、そのあとクロムを手伝って鴇汰に回復術を施し、疲労がひどかったために、穂高たちが寝かされていた隣の部屋でずっと休んでいたらしい。
「騒ぎも聞こえてはいたけれど、どうしても睡魔に抗えなかったんだ」
笑いながら一気にスープを飲み干している姿を見ると、本当になんの心配もないように思える。
ただ、雰囲気というか、なにかがこれまでと違う気がした。
「梁瀬くんも起きてきたことだし、次の問いに答えるのにちょうどいいかな。その前にもう一度、約束の確認をしておこうか」
空いたカップにまたスープを注ぐと、梁瀬の隣に腰かけて少しだけ意地悪な目で微笑んでいる。
「森の外へは出ない、鴇汰さんに姿は見せない、ですよね?」
答えたのは梁瀬で納得して受け入れているように見えた。
「おまえも同じ約束をさせられてたのか?」
梁瀬と向かい合わせで座っている徳丸は、驚いた顔で問いかけた。
「僕は別にさせられたわけじゃなくて、そう約束をしただけだよ」
当たり前のことのように答え、しれっとした顔でまたカップに口をつけている。
テーブルに着いてから、梁瀬とクロムは視線を一度も合わせていないけれど、互いに信頼し合っているように感じた。
術を扱うもの同士でどこか気が合う部分でもあったのだろうか?
先に目を覚ましていた梁瀬が、鴇汰を回復させていたあいだに、なんらかのやり取りがあったのかもしれない。
それは今から話すことと関わりがあるんじゃないか――?
視線に気づいたクロムが穂高を見て、いつもの表情を浮かべた。
(あぁ、やっぱり……)
なにかを企んでいるに違いない。
そこに否応なく巻き込まれていくんだろう。
庸儀の兵に襲撃されたこともあるから一刻も早く泉翔へ戻りたいけれど、どうやらそうも行かないようだ。
それでもクロムがついている以上は、命の危険に晒されるようなこともないと思う。
泉翔へ戻る方法もそのタイミングも、きっと穂高たちに都合のいいやりかたで考えてくれているだろう。
梁瀬がクロムの側についているなら、巧と徳丸がどうごねたところで無駄に終わる。
腹が決まれば、早く話しを聞いて動くのが得策だ。
「俺も……鴇汰の様子は気になりますけど、さっきの約束は必ず守ります」
「穂高……」
まだ不安そうな巧と徳丸も、穂高と梁瀬の答えを聞いて渋々と了解をした。
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