第45話 ジャセンベル ~岱胡 3~

「修治さん、たった今、三千人ほどの部隊が二部隊、出ていきましたよ。多分、行き先はロマジェリカとヘイトッスね。ロマジェリカのほうにはレイファーがいました」


「レイファー……確か王族で軍の責任者とかいわれていたやつか? 間違いなくそいつだったのか?」


「ええ。俺、何度もあいつの部隊の防衛戦に出てるから、見間違えはしません」


 修治はジッとうつむいたままで考え込んでいる。


「岱胡、支度して発とう。朝飯は昨夜の残りがあるから、それで間に合わせることにするぞ」


 手分けしてすぐに片づけをはじめ、荷物を積み込み、修治の運転でまずはルートまで出た。


「追っているとを勘づかれちゃあ面倒だからな、おまえのスコープでなんとか確認できるってくらいは、離れておきたい。昨日の庸儀のやつらは撒いたようだが、楽観はできない。奉納場所はヘイト方面だから西へ……こう出て、それからこっちへ出る」


「わかりました」


 地図を見ながら、改めてルートを決め直した。


「ところで気になったんスけど……庸儀のやつら、やっぱり俺たちのことを追ってきてるんですかね?」


「他国に……ってより、この状況で同盟国以外に侵入してくるくらいだ、そう思って間違いはないだろうな」


「一人が目立ってたって言ってましたけど、それにしたって良く庸儀だと確定できましたね」


 修治は小さくため息をつくと、エンジンをかけて車を出した。


「あの国には、どうもいろいろと情報が流れているような気がする。麻乃の件もそうだが、今回のことにしたって、上陸してすぐに俺たちのほうへ向かってくるなんておかしいだろう? しかも敵国に入り込んでまでな」


「あ、それは俺も思いました。ロマジェリカでだって、行きに敵兵と遭遇したことなんて一度もなかったのに、今回にかぎってこんなに早く、しかも追われる形なんて変だな、って。ポイントが割れてるんですかね?」


 岱胡は中腰になってフロントガラスに寄りかかり、敵の部隊との距離を確認してから、修治を見おろす。


「それもあるかもしれないな。それに……このあいだの襲撃の件があっただろう? 恐らく、あのせいでもあると思う」


「あのとき、俺は堤防から見てたんでわからなかったんスけど、なにかあったんですか?」


「ちょっとな。まぁ、最初からなにかあるだろうと思って構えてたから、驚きはしなかったが嫌な気分だ……おい、しっかりつかまってろよ?」


 敵兵たちが通っている道から外れ、それに沿って続いている木立の中に入った。

 舗装されていない道は、ゴツゴツとして車体を揺らす。


「途中までは同じルートだから目立たないように当分はこっちを走るぞ。時々出るから、そのときは相手との距離を確認してくれ」


「わかりました」


 途中、距離が近づき過ぎたために、休息をとって食事の準備をした。

 前を行くジャセンベルの部隊次第では、夜を越すことになるかもしれないと、夕飯の準備まで一緒にしていたけれど、奉納場所へのわかれ道に着いたころには、まだ夕暮れ前だった。


 そこからは修治もスピードを上げて走り、夜になって奉納場所の森に着いた。


「いつものルートより、こっちだと一日早く着くんだな。今回みたいなことがなければ、向こうのルートが安全でいいが、一日の差はデカイか……」


「そんなに違うんじゃ、俺はやっぱりこっちのルートのほうがいいッス」


「おまえがいれば、周辺の確認をしてもらえるからいいだろうな。けど、巧と鴇汰じゃ難しいだろう? 特に鴇汰のやつなんざ、ここの軍には嫌われてるだろうからな」


「あぁ、あの人、毎回この国の軍を追い返してますからね、顔も割れてるだろうし」


「今夜はもう遅いから、奉納も植林も、明日だな」


 テントを張り、休もうとしたとき、修治の表情が険しくなった。

  

「……人の気配がある」


 明かりを消すと、そうつぶやいた。


「まさか、庸儀のやつらが先回りして……」


「いや、この気配は違う。巧の言ってたジャセンベルのやつだろうか?」


「でもそれは、巧さんが近づかないように連絡してくれたんじゃ……?」


「ちょっと周辺を見回ってこよう。念のため、おまえも一緒に来い」


 修治がテントを出たのを、岱胡も急いで追った。

 真っ暗な森の中には人の気配は感じない。

 それでもなにがあるかわからないと思い、いつでも抜けるように腰もとに手を当てた。

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