第148話 修復 ~麻乃 7~
深夜になってから道場の前に、大型の幌付きトラックが数台用意された。
麻乃は塚本と一緒に、子どもたちが荷物を積み込むのを手伝った。
荷台に乗り込んでいく子どもたちの顔が、一様に暗くて思わず苦笑してしまう。
幌のロープを締め直しながら、みんなを眺めた。
「あんたたちねぇ……まるで葬儀にでも向かうようじゃないのさ」
「変なことを言うなよ、俺たち、今はやる気十分なんだぜ」
「そうよ。ここまで来たら全力でやるだけだもんね」
暗く見えている表情とは違い、目は力強く先を見ている。
泣いても笑っても、これが最後の演習だ。
力の足りないものや、家業を継ぐ意思の強いもの以外は、その後の洗礼で印を受けることになるだろう。
この道場に十六歳は十二人いるけれど、恐らく印を受けるのは洸や琴子たち、五人だけだと聞いている。
自分たちでもそれがわかっているのか、緊張も気合も人一倍だ。
「先生たちはさ、あんたたちになんて言ってるか知らないけど……あたしは良く、気負い過ぎだって言われるんだけどね。別に気負ってもいいと思うんだよね」
子どもたちが荷台の中から、一斉に麻乃に目を向けてきた。
「そりゃあ、それで落ち着きがなくなったり、判断が鈍ったりするのはマズイけど。でもさ、実際はそうしなきゃどうにもならないことが、多過ぎると思うんだよ。あたしなんか、特にさ」
「それは麻乃ちゃんが、チビだからじゃないの~?」
琴子のからかうような口調に、耕太が吹き出した。
「チビって言うな! それに、そのほうがより力が入るし、踏ん張りがきいたりするんだよ」
「って言うか気負うってよりも、気合を入れるって感じじゃねぇ?」
「う~ん……似てるんだけど、ちょっと違うんだよ」
みんな、良くわからないというように、首をかしげている。
「そのうちわかるよ。それより今年は北区が強いらしいじゃない」
「そうなんだよ。あっちは体もデカイやつが多いし、力も強いっていうんだよな」
正次郎と雅人は、荷台から少し身を乗り出してきた。
荷台に寄りかかると、麻乃は夜空を仰ぐ。
比佐子と徳丸の戦いかたを思い出し、子どもたちを寄せ集めた。
「あっちは力でごり押ししてくる戦いかたが多いんだよね。まともに受けたら力負けするから、相手の動きを良く見て受け流すんだ。振りが大きいから隙も見つけやすい。だからそこを衝く。あんたたちは基本を叩き込まれているから、簡単に見極められるよ」
「うん。わかった」
「それから気配だけはしっかり抑えなよ。馬鹿みたいに離れたところから殺気丸だしにしてたんじゃ、隙を見つけても踏み込めなくなるからね」
「それもわかってるって」
かつての演習のときを思い出したのか、耕太がバツの悪そうな顔で答えた。
「まぁ、あんたたちが本領を発揮できなくても、ほかの道場の子もいるんだし、そんなに問題でもないか」
「あんた……本当にヤなやつだよな。激励にきたんじゃないのかよ?」
クスリと笑って嫌みを言った麻乃に、雅人が口をへの字にして文句をつけてくる。
「あ、そうそう、今年、もしも優勝したら、あたしのとき以来だから、八年ぶりの快挙だよね」
「今度はプレッシャー攻撃かよ? 俺たちはやる気十分だから、あんたもう、あっち行けよ!」
正次郎が追い返すように手を振って笑った。
暗かった顔がいつの間にか、ずいぶんと明るくなっている。
どうやら緊張はほぐれたようだ。
「そういえば、洸がまたいないね?」
荷台の中には姿が見えない。
ほかのトラックには十四歳、十五歳の子どもたちが乗っていて一杯だろう。
「洸はさっき、長田さんに話しがあるって言って向こうに行ったよ」
琴子の答えに、麻乃は腕時計を見た。
そろそろ出発する時間だ。
鴇汰の車へ目を向けると、二人が何か話しているのが見える。
「誰か呼んできなよ」
「やだよ。メンドクサイもん。体力温存したいし、麻乃ちゃん自分で呼んできなよ」
(本当にああ言えばこう言う……)
仕方なく、二人のほうへ足を向けた。
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