私がお父さんを嫌いな理由

第1話

「私はお父さんが嫌いです。今からお父さんが嫌いな理由を皆さんにお教えしようと思います。まず私が作ったカレーに生卵をトッピングしてぐちゃちゃに混ぜて食べるのが許せません。生卵トッピングはこっそり試したら美味しかったですけど、私は都度混ぜ派です。

 それに服を畳むのが下手すぎます。袖とかがはみ出してぐちゃぐちゃです。ちゃんときれいな長方形になるように畳んでください。せっかく洗ったのにシワになります。

 お金を直接ポケットに入れるのはやめてほしいです。ポケットにお札を入れているとぐちゃぐちゃになってしまいます。高校のときお昼代として毎日もらっていた千円札がぐちゃぐちゃだったので学食や売店で使うのが恥ずかしかったです。それが嫌で毎日私が自分とお父さんの分のお弁当を作ることになってしまいました。おかげで料理が好きになったのでこれは特別に許します。

 お父さんが料理すると台所やシンクに物が散乱してぐちゃぐちゃになるのは許せません。料理がしたいと私に教えを請うのはいいですが、夢中になりすぎないでください。料理だけじゃなく洗い物にも気を配ってください。それに野菜の食べられる部分まで切って捨ててしまうのは勿体ないのでやめてください。あと私が教えたレシピを勝手にアレンジしないでください。美味いだろと自慢げな顔をするのもやめてください。本当に美味しいのでちょっとむかつきます。

 最後にお父さんを一番嫌いだと思ったときはお母さんのお葬式です。お葬式のとき涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔でわんわん泣くから私が泣く雰囲気じゃなくなってしまったことをまだ許していません。今でもたまに私に隠れてお母さんの写真の前で泣いていることは知っています。私が家を出て隠れる心配がなくなったらしょっちゅう泣くのではないかと今から心配です。

 最後になりますが、今も涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして泣いているお父さんも嫌いです。娘の結婚式くらいかっこよくしていてほ、欲しかったです。い、いじょ――以上」

 私は新婦から父親への手紙を閉じる。シーンとしている結婚式場にお父さんの泣き声と私の鼻を啜る音だけが響く。

 多分、私も今お父さんと同じように涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をしているのだろう。

 どこまで行っても私たちは親子ってことを思い知らされるようでお父さん本当に嫌い。

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