第30話 スーサイド・コンバット⑦
「気味の悪い餓鬼じゃ」
「いつもニタニタしておる」
「こちらが邪険にしとるのに気が付かん」
「この前も与太郎と呼んだら喜んでおった」
「あれは頭が足らんのじゃ」
母も父も知らん。いつも腹が減っていた。小さい頃は山のクソ坊主と遊んでやれば何かしら食わせてもらえたが、大きくなったら好みじゃないと言われた。腹が立って木の棒で殴り殺してやった。
殴り殺したら、さらに腹が減った。畑で野菜を盗んでたら、捕まって折檻を受けた。ヘラヘラしてたら、気味わるがって、アイツらが手を止めるのを俺は知ってる。ひとつ賢くなった。
いつも腹を減らしてたわりに、身体はどんどん大きくなった。ヘラヘラとバカなふりをする。いや、実際バカなのかな、俺。ま、文字もよめねぇしな。とにかく腹が減った。いつも食いもん探してた。
アイツらよりも頭一つ分くらい身体が大きくなったら、今度は「鬼子」だの「天狗の子」だのと言われた。身体が大きいから、兵になれって言われて、飯を食わせてくれるっていうから戦に出た。でも飯を食わせてくれたのは最初だけだった。死んだ偉そうな奴らから物を剥ぎ取る方が実りがいい。またひとつ賢くなった。
身体が大きくなったら優しくしてくれる女が増えた。でも抱く時に俺が噛み付くから大抵すぐに嫌われた。時々、金を渡すと噛んでも怒らない女がいることを知る。またまたひとつ賢くなった。
俺は食べ物と女を噛んでると、なんだか落ち着いた。
ある日、浜辺で腹が減ってぼんやりしてたら、変なもん見つけた。とにかく腹が減ってたから、あんな変な魚食べたんだと思う。正直、食えれば、何でも良かった。
◆◆◆
網膜がまぶた越しに外の光を感じ、漆黒の闇が終わる。なんだか嫌な夢を見ていた気がする。頭が痛い。
ここはどこだろう。上半身を起こすと、作業机の上の見慣れたスナイパーライフルが見えた。俺の部屋か。えっと……なにがあったんだっけ。
ベッドから降りようとして、椅子に座ってベッドに突っ伏して寝ているマナミさんに気が付いた。ベッドから降りるのをやめて、俺は彼女の頭を撫でた。彼女はビクッと肩を震わせてから起き上がる。
そして、俺を抱きしめてから、わんわん泣いた。なんかよくわかんないけど、心配かけたみたいだ。
「ヨタ君、もう起きないかと思った……。怖かったよぉ」
頭におっぱいを押し付けられながら抱きしめられてたら、だんだん頭がハッキリしてきたけど、いまはこのままポヨポヨでフワフワの感触を堪能したいから、まだぼんやりしてるふりをする。
でも無意識に彼女の腰に手を回して、おっぱい揉みながら、スンスン匂い嗅いでたみたいで、マナミさんに「もう元気だね」って笑われてしまった。可愛いなぁ。また会えてよかった。
「俺どれくらい死んでたの?」
ひと通りお互いの寂しさを埋めた合ったあとで尋ねると、「一週間くらい」と言われた。今日でもうゲームは最終日らしい。そっか。もう終わっちゃうんだ。
ゲーム終わったら俺たちの関係どうなるんだろう。これで終わりは嫌だなぁ。俺、日本に家ないし、マナミさんちに泊めてってお願いしたら泊めてくれるかな?
マナミさん、寝不足だったのか、話しかけようとしたらもう俺の腕ん中で寝ちゃってた。相変わらず天使みたいな寝顔だった。なんか俺も眠たくなってきて、また目を瞑る。
今度の夢は、マナミさんがカッコいいガンアクションをしながら百発百中で参加者達をバッタバッタと殺す夢だった。めくれたスカートの中はTバックだったので、俺はフフフって幸せな気持ちになった。
◇◇◇
ゲームが終わった後で、シムラさんとモリさんがお見舞いに来てくれた。そして、そのままお疲れ様会に誘われる。マナミさんの方を見たら、相変わらず「行かない」とそっけなく断られてしまって、俺だけ参加することにした。
「マナミちゃん大変だったよ」
タキ主任、シムラさん、モリさん、俺のいつものメンバーで、酒を飲みつつ会話をする。俺は赤いコーラだけど。
俺が死んでた間、マナミさんは爆発直後に、敵本部の扉をこじ開けて瓦礫の山をどかして、俺の死体を探すって大騒ぎしたらしい。シムラさんがその時のことを思い出したのか、肩をすくめる。
「もう止めに入った社員たちを殴る蹴るわの大立ち回りでさ。タキさんが『ヨタロー君の細胞は、自動的に集まるから、いたずらに遺体を細胞が飛び散ってる場所から離すと再生が遅くなる』って何度もプロモーション動画見せて説明して、ようやく納得してくれたんだけどね」
タキ主任の言う通りだったので感謝しかない。プロモーション動画の撮影で何回もサイコロステーキになった甲斐があったというもの。
「三日くらいしてから、みんなであの部屋に入ってね。そしたら、ヨタロー君の身体ほとんど形戻ってたから、部屋に運んだんだ」
シムラさんの話を引き継ぐかのように、タキ主任が話す。すると、モリさんが情感たっぷりにカットインしてきた。
「でもね! ここからが超怖~い話だよぉ!」
モリさん、先に「怖い」と言ってしまって良いのだろうか。と笑いそうになる。
「深夜ね、飲み物買いに売店行ったらさ……廊下をね、こうズルズルぅ……ズルズルぅ……って」
俺のまだ向こうに残っていた細胞たちが俺の部屋まで大移動していたらしい。たしかに、それは怖い。
「もう僕、とんでもない声出しちゃってさー。タチバナさんの部屋の前だったからめっちゃ怒られた」
「でもタチバナさんも朝、ヨタロー君の部屋の扉の前で、ドアの下の隙間から一生懸命に中に入ろうとしてる肉塊見て、悲鳴あげてたよ」
シムラさんから得た追加情報に、ただただ申し訳ない、と苦笑いである。みなで談笑が続く。俺はこの会社の人達が好きになりつつあった。居心地がいい。ずっとこの会社にいれるといいなと思った。
◇◇◇
飲み会の残りの未開封ポテトチップスと缶酎ハイとコーラを持って、俺はマナミさんの部屋のチャイムを鳴らす。前回と違って今回は二回目で出てくれた。
部屋に入ると、彼女はまた同じゲームをやっていた。ベッドの上で胡坐をかいて、コントローラーを持つ彼女にポテトチップスの袋を渡す。彼女は器用に食べながらコントローラーをいじっている。
今日は俺が来てもゲームは中断してくれないらしい。ま、いっか。俺もベッドの上に上がって、ゲームをしてる彼女を後ろから抱きしめて邪魔をする。
「打ち上げ終わるの早かったね。なんかいつもはもっとダラダラ飲んでるのに、あの人たち」
おっぱい揉み揉みしたら、ようやくゲームを中断してくれて、背後にいる俺を見上げて彼女はそう言った。俺は抱きしめて「いやまだやってるよ。俺はマナミさんに会いたくて、早く帰ってきちゃった」と彼女の耳を齧りながら報告する。
腕の中の彼女がだんだん脱力していくのを感じながら、俺はさっき決めたことを口にした。
「マナミさん、俺と結婚してよ」
彼女に出会って、俺の五百年分の飢えはあっという間に治まった。ずっと俺は愛情が食べたかったんだ。マナミさんの愛情はきっと普通の人には刺激的過ぎるヘンテコな味で、でも俺にはどんなご馳走よりも美味しい。
俺、この子が死ぬまでずっと一緒にいたい。
突然のプロポーズだったせいか、マナミさんは後ろから見てもわかるくらい耳を真っ赤にして、すごい小さな声で「いいよ」って返事してくれた。
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