月は護り花は狂い咲く After

桜狼 殻

第1話 Double


 世界は一つの区切りを迎えた。



 大戦の中多くの方が犠牲となり、その最中に神が降臨した、神が死んだ等まことしやかに噂が流れていた。


 だが、真実を知る者は数名しかいない。




 逢禍おうかも神の力だったのか残存していた勢力がどこかへ消えてしまった。


 油断はならないが一旦は平和になったと思っていいだろう。



 そして、最近小町の様子が抜群におかしいので『もしかして逢禍と入れ替わったのか?』と疑うも、逢禍の反応は一切ない。


 多分強く頭を打ったのかも知れん。




「月巴、12時半から休憩入ってね!♡」


「はい」


 何か嫌に機嫌が良い。


 正直この後死ぬ程セクハラされるんじゃないかと戦々恐々としてるのだが、それもない。



 何故だ。逆に怖い。



 いや、これで社会的には正常なんだが小町の場合は異常だ。


 このまま、じりじりと俺をメンタル面から弱らせていく作戦か!?



「トリカブトニコチンフラペン下さい!」 


「そんな毒薬は販売してないぞ、芽衣めい


「ワンチャン合ったらお兄ちゃんに飲んでもらおうと思ったのにー!」


「ないから!桜クリームフラペン飲んでお散歩しておいで。奢るから」


「え、有難う♡次は必ず苦しまない様に毒殺するね!」


「そんな殺害予告はいらん!」





「ただいまー」


「おかえりなさーい!」


「六花の方もまだ忙しい?」


「うん、異常事態が終わっても神様にお願いする方は多くなってるね」


「まぁ、信心深く神に祈る方は多いだろうな」


「調子に乗って限定御朱印と御朱印長出してるうちの神社は参拝客が長蛇の列でブラックです」


「商魂逞しい神社だなぁ…」


「でも、皆毛筆スキルの数字が上がってきて、綺麗な御朱印書ける人が増えてきました!」


「早速スキル取得者が増え始めて良かったよ」


「最初説明が大変でしたけどね!」


「難しくは作ってないから、すぐに慣れるさ。テレビはまだだけど、動画配信者が早速使い方なんかを紹介してるから、インフルエンサーって凄いなって思うよ」


「もしかして悪人が人を殺せるスキルを手に入れたりする事も…?」


「そもそも悪人が喜びそうなスキルは自分で獲得出来無い様になってるんだ。ただ、受け渡しが出来る以上、誰かから貰う事は出来る。国営のスキルショップやスキル犯罪への法律の制定なんかを早めにして欲しいんだけどな」


「あの一瞬でそこまで願えたの?凄いね月!」


「あ、いや、そういう訳ではなく中二病的発想でずっと思い描いていた事なんだ」


「でも、素敵な発想です!頑張れば報われる!」


「理想の世界へ変わっていくといいな…なんかミスしてヤバイ事になったら凹むけど」


「そんな事にはなりませんよ…多分」


「多分があれば俺が直接戦いに行くがな」


「ににっ!」


「コロ様も一緒に行ってくれるでちかー!超いい子でちねー!ゆーつべ動画百万回再生おめでとうー!」


「久々に月の親バカ顔見て、日常に戻った気分が味わえたっ!」





 夜御飯の時間。


「小町お疲れ様」

「おねーちゃんおつです!」


 難しい顔をして声を掛けたのに気づいてない。


「小町、どうした?」


「さっき天の啓示があって、奈良隔絶ケーキとか隔絶フラペンとかワンチャン売れるんじゃないかと…♪」


「地元民のトラウマ呼び起こす様なメニューはやめろっ」


「お姉ちゃん、うちの神社と同じブラック商法…」


「ちっ、夏月大社なつきたいしゃに後れを取るとは…小癪こしゃくな…」


「夏月大社の関係者が夏月大社を小癪とかいうのはお前がきっと初めてだな」


「ま、いいや!今日は私の調理担当だし肉でいい?」


「わーい!」


「最近スタミナメニュー多いな」


「月巴最近疲れが取れないって言ってるじゃない?その変わり月巴が晩御飯担当の時は和食ガチ指導で行くからね?♪」


「宜しくお願いします」


「ににににににっにに!♪」


「コロ様がそろそろ喋る予感!可愛いでちねー!もう物理的に目に入れても痛くない予感!」


「コロちゃんを前にするとキャラブレが凄いわねー♪子供生まれたら常時こんな感じなのかしら♪」


「…自分がどうなるか予測がつかない…」


「六花は間違いなく子煩悩になるわね♪」


「それは確実…というか一回見ちゃってるし!」



「はーい!特製スタミナガーリックステーキ召し上がれー♪」


「小町…俺のステーキだけフライドガーリック多くね?」


「あああー盛り付けの時に比率変わっただけだってー♪」


「月は明日マスクしないと接客出来ないかもねー」


「寝る前にマウスウォッシュと匂い止め飲んどかなきゃ…」


「ふふふ、お客様に失礼があってはいかんぜよ♪」



  



 大戦が終わってから三か月が過ぎようとしていた。


 奈良全域で住人の安否確認をし、把握出来たのが八割。


 残りは現時点で消息不明となり、親類にも連絡が付かない場合は今後予定されている合同慰霊祭で供養され、住居は整地される事となる。

 極端に人口が減り、あからさまに人通りがなくなったので、いずれ県が奈良への誘致計画も出すのだろうが…今は犠牲になった方を弔うのが先だ。




 逢禍になってしまうと、骨も残らない。


 俺はこの空にいた魂を何十万人祓った。


 逢禍になったら戻らないのは解ってるが、魂と対峙して自分が祓った事は死ぬまで忘れない。



 そういえば美姫さんが活躍を労われ、名実共に奈良警察署署長となった。


 今までも実質トップだったから変わらないんだろうけど。





 そして、この戦乱で過ぎてた俺の誕生日。


 十六になった。



 本当は誕生日の夜中に行きたかったんだが…


 二人の休みを平日に合わせて奈良市役所へ婚姻届けを出してきた。


 晴れて正式に夫婦となった。



 六花が泣き止まなくて困ったが、凄く待たせたから今日は好きなだけ泣かせてあげた。


 何も変わらないのに何か新しくなった気がする。


 でも結婚指輪は新鮮で気に入った。




 しかしそんなタイミングで、事件は起こった。




 六花が帰宅早々体調を崩したのだ。


 少し吐いたので胃腸薬を飲ませて、容体を見る。


 小町の料理に限って食中毒はない。


 あと考えられるのは‥‥



「六花?なんか腐りつつある物を食べた?」


「そんな卑しくないですー!なんで現在進行形で腐ってる物限定なのーうぇぇ」


「ちょっと症状で検索するからいいこいいこ」


 儀式の如く六花のおでこにコロをお供えして、検索する。


 …あ


 その可能性を見てなかった!


「六花、三分だけ出てくる!」


「はぁい…」


「ただいまー」


「早っ」


「早い…」


「お前も侵入早いな、茨っ」


「ふふふ」


 お供えもダーリンがしっかり増えている。



「六花、このアイテムを授けよう…」


「こ、これは伝説の!?」


「…初めて見た…ごくり」





 その日の晩は、俺と六花の入籍記念で皆が集まってきた。


 小町が料理の腕を振るう…はずが何故か居ない。


 代わりに駒鳥鵙こまどり夫妻…お義父さんお義母さんが料理を振舞ってくれるそうな。


 生きてて良かった!!


 ここに家の両親、雪、栞、茨、薺ちゃん、冴、庵、美姫さん、麗、おじいちゃんに芽衣とアベン〇ャーズ並みの勢ぞろいで料理に舌鼓を打つ。


「で、六花はなんで体調崩したの?またパンツ一枚で寝てたんでしょ?」


「ママ、過去の所業をばらすのやめてー!えーと…これを見よ!」


「伝説の検査棒!!!」


「パパ、ママ、お義父さん、お義母さん、皆!私はママになりますっ!!!」


「ちょっと待った――――――――――――――――――――!!!」



 突然の小町!!!


「小町、あんた気分が悪いんじゃなかったの?」


 ビシッ!!!


 小町が構えたのは……同じく伝説の検査棒!!!


『え―――――――――――――――――――――――――――!!!』



 六花だけでも十分吃驚なのに、小町も…


 検査薬を二人でビシッ!と斜めに構える駒鳥鵙姉妹こまどりしまい


「お前ら変身するのか!?」



「それより…ろかろかはいいとして…」


「小町姐さん!誰の子!?」


「薺…貴方の子よ…」


「いやいや、ホラー映画観るだけでは子供出来ないっす」


「まぁまぁ、良くない事の後にええことあるの嬉しいやん!おめでとうさん!」


「ほんまやわ、奈良の出生率あげていかなね!」


「私だけ置いて行かれてる~でもおめでとう~」


「六花…小町…おめでとう!パパ嬉しいで!」


「貴方達がママにねー…かなりの不安が…」


「ママ酷いー!」


「嘘よ、早く孫の顔が見たいわ♡」



「美姫様…こんな暖かい場所、あるんですね」


「お前ももうその一員だ。遠慮はするな」


「はいっ!」



「鹿鳴おめでとうよ、実の祖父ではないが実の祖父並みに感動しておるよ」


「おじいちゃん、有難う!また肉まん食おうぜ」


「次は私との子作りね!」


「芽衣はまず小学校卒業と毒殺禁止からな!」





「ねねね?お姉ちゃん!本当にお相手は誰なの?」


「んー?好きな人だよ…この世で一番!でも好きになっちゃいけない人だから…好きな人の子供ならシングルマザーでもいいかなって」


「なんか不倫とかやべー匂いしかしないんだけど大丈夫…?」


「法律は!捻じ伏せるもの!♪」


「なんか強い格言風に!!」



「兎に角、六花、月巴、入籍おめでとう!!」


 なんか滅茶苦茶デカいクラッカーの中身が飛んできた!


「小町もおめでとう、心からお祝いするよ」



「あーりがとー!ちょっとまだ気分が悪いから風に当たってくるわ♪」







「ほら、また泣いてる」


 ベンチに座っていた小町に雪が話しかける。


「雪ちゃん…」


「今泣いてるのは、二人が入籍しちゃったから?それとも月の子供が出来たから?」


「…雪ちゃんにはバレバレだね」


「神様のお願いの使い方がこれだったんですね」


「どうしても…月巴以外を好きになれなかった…なら、せめて好きな人の子供が欲しい…でもそんな事二人に言える訳ない…」


「だからお願いしたのね」


「うん、二人とも熟睡した後、月巴が無意識に抱いてくれる様に…罪悪感も酷かったけど、この三か月幸せだった。もう吹っ切る様にしなきゃ」


「想うだけなら自由ですわ!私も手伝いますわー!」


「……有難う…ごめんなさい…」


「授かる子に泣きながらごめんなさいは駄目ですわ!記念日なんだから笑顔笑顔!」


「うん…あれ?スキルが出た…」


【時を超えた慈愛】

 このスキルを保有する限り、想う相手の怪我や病気の確率が低下する。

 このスキルは成長する。


「初めて貰ったスキルまでが、想う事を止めさせてくれないよ…」





「なぁ、雪と小町が外で抱き合ってるんだけど、お父さんてもしかして…」


「意外すぎる展開!!!」






 お祝いも滞りなく終わり、お開きになった後、六花は体調が悪く下に降り、俺が後片付けするからと皆にも先に帰ってもらった。


 お皿を洗って掃除して、振り向いたら小町に顔掴まれてちゅーされる。


「吃驚するわ!」


「あははははは♪」


「体調は?」


「今はマシかにゃー♪」


「それでさ…」


「ん?」


「相手…誰なんだよ…」


「ほほー…これは月巴が妬いておるな♪」


「そんなんじゃねーよ…お前はすげーいい女なのに何で小町を選ばないのか腹立たしいだけだよ」


「…ふふふ、有難うね!好きな人にも事情があるんだよ♪でも心配しなくても小町はずっと月巴のオ・ン・ナ♪」


「…シングルできつい事あれば俺も手伝うからな?小町ももう家族なんだから」


「うん♡」





「ただいまー、六花気分どう?」


「うん、今は大丈夫だよー」


「やっとだな…やっと子供が…」


「高校はどこにします?」


「気が早すぎる!六花は…夏月大社引退かな?」


「出来ればギリギリまでしたかったんですが…子供が出来ちゃったから巫女さんにはもうなれないです…巫覡は引退が無さそうですが」


「もしギリギリまで頑張ると、正月跨ぐけど?」


「やめます。今すぐ辞表書きます」


「どれだけ正月勤務が嫌いか分かるな」


「まずはネットを駆使して胎教と食事、体調管理に服ですね!」


「小町と連携して二人で元気な子供産まないとな!」


「はい!あと部屋ですね!ベビーベッドどうしましょう?」


「俺達のベッドの奥かな?泣いてもすぐに抱きに行けるし」


「なんか夢が広がりますねー!」






「ただいまー♪」


「おかえりー!ご飯とか暫くママかパパがやるからね!」

「わお、有難う!そして小花ちゃんただいまー♪」


「あぷー♪」



「小町…ほんまシングルマザーとか大丈夫か?パパもママも六花みたいに結婚してくれたら…って気持ちはあるんやで?」


「パパ、有難う…でも違う人を好きになれないし、かと言ってその人とは結婚も出来ないから、これでいいんだ♪」


「ママはいいけど……どうやったか知らないけど絶対バレない様にね?」


「ママの女の勘凄い!♪」



「名前とかも少し考えて起きなさいね?」


「もう考えてるよー、貞子」

「駄目よ」


「富江」

「駄目よ」


「キャシー」

「ホラー映画から離れなさい!あと男の子だったらどうするの?」


「…ピンヘッド?」

「名前はママ達が決めますね?」


「えー!かっこいいのにー!」

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