『演劇』

「じゃ、文化祭の出し物は演劇で、脚本は白鳥さんにお願いするってことで」

 


――最初聞いたとき、めっちゃくちゃ面倒くさいと思った。別に脚本書くこと自体は嫌いじゃないけど、でも正直なところあんまり気乗りはしなかったのだ。



だってオリジナルではなく、元々あった物語にアレンジを加えるだけなのだから。テーマは『白雪姫』だから、それに沿った内容になるだろうし……そんなことを考えてたら、ちょっと気が重くなった。



だってオリジナルを劇にするとかだったらまだしも、既にある話に手を加えろと言われてもねぇ……んなもん、元にあった話が一番いいじゃん? そう思ってたんだけど……



「……元の白雪姫……ぐろっ……」



グリム童話版の本を読んでみた私は思わず顔をしかめた。いやーグロいわぁ……これホントに子供向けなのかよ! っていうくらい残酷描写がてんこ盛りである。まあこれはこれで面白いんだけどね。ただこれをそのままやるには抵抗があるというだけで。



「これはアレンジが必要だわ……」



夢の国の『白雪姫』はいい感じにマイルドになっているけど……!



「マイルドにせずあえて、グロくアレンジしてみるかな?」



いや、でも学校だしなー。さすがにそれはマズいかもしんない。結局、グロくアレンジする話はボツにした。そして代わりに私が考えたのがこれだ。




△▼△▼



昔々あるところに、『白雪姫』と呼ばれるとても美しい少女がいました。彼女を見ると、誰もが目を奪われてしまうほどでした。最初の頃の母親は無関心で白雪姫を放置していました。



白雪姫を放置し、ご飯の場でさえ一緒に食べようとしない母親の生きがいは魔法の鏡でした。毎日のように魔法の鏡に向かってこう言います。



「鏡よ鏡、この世で一番綺麗なのは誰?」



「それはあなた様です、王妃さま」



と、いつも通りのやり取りをしていました。しかしある日のことです。



「鏡よ鏡、この世で一番綺麗なのは誰?」



いつものように問いかけると、魔法の鏡が答えました。



「それは白雪姫です。白雪姫がこの世で一番美しい」



その言葉を聞いた途端、王妃の顔色が変わりました。今まで見たことがないような恐ろしい顔つきになり、白雪姫を殺そうと決意しました。

早速猟師を呼びつけ、白雪姫を殺すように命令します。命じられた猟師はすぐに行動に移りましたが、まだ七歳の子を殺すことはできません。



それは罪悪感もありましたが、それよりも白雪姫への愛が強かったのです。周りからは『ロリコン野郎!』とか言われてバカにされていましたが、それでも彼は自分の気持ちを貫くことに決めました。



なので白雪姫を逃してあげようと思い立ちました。殺すフリをして森の奥へと逃がしてあげることにしたのです。

ところが森の中へ逃げ込んだ白雪姫は、道がわからなくなってしまい迷ってしまいました。困り果てているところを親切なお婆さんに助けられます。



美味しい食べ物を食べさせて貰いながらお礼を言うと、老婆は自分の家に泊まることを勧めてくれました。こうして白雪姫はしばらく滞在することにしました。

その間、老婆はとても優しくしてくれました。しかし、ある時老婆の家に悪い魔女とお姫様が現れました。魔女とお姫様は白雪姫を見てすぐに気に入り、自分のものにしようと企みますが――?



というのが大まかな流れである。小人は出て来ないし王子も出てこない話だ。



「途中から何か白雪姫じゃないような気がするけど……まあいっか!」



と、勢いだけで提出した。深夜テンションで描いた脚本。冷静に見たらすげぇ恥ずかしくなりそうな出来だけど……何故か、通ってしまったのだ! しかもクラスの皆からの評判もよくて……私としては複雑だったけど、とりあえずOKが出たならよかったと思うことにした。



……ちなみに配役はこんな感じになった。まずは主役の白雪姫役は丸山優里さんだ。私はあんまり知らないけど、美少女らしい。私にはそう見えないけどね。菜乃花先輩の方が可愛いし。



まぁ、でも――。



『覚悟は出来たわ!』



迫真の演技をする丸山さんの姿。新聞部より演劇部に入った方がいいんじゃないかって思うくらい上手かった。



「(丸山さんのことあんまり知らないけど……でも)」



何事にも一生懸命な姿は素直に凄いなと思った。初めてだ。菜乃花先輩以外の人をそんな風に思ったのは……



「……奏先輩と菜乃花先輩が見てるんだよね……」



二人ともどんな反応するか気になるし、楽しみでもあるなぁ……なんて思いながら私は舞台袖で待機していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る