『奏先輩と執事服』

――今日は2日目。私は今、自分のクラスである写真展にいる。そして隣には奏先輩がいる。今日は奏先輩で明日は真美ちゃんと文化祭を回る約束をしている。

そんなことを考えていると、



「どうしんだ?菜乃花。ぼーっとして」



顔を覗き込んでくる奏先輩。

その行動にドキッとしながらも、 大丈夫ですよ。と答える。

奏先輩は不思議そうな顔をしながら、私の方を見ていたが、



「そうか……」



と言い、また写真の方を見る。

私はそんな奏先輩の横顔をチラリと見る。

整った横顔。綺麗な目鼻立ちに、サラサラした髪。本当にカッコいいし、美人だと思う。そして同時に――。



「(どうして、私なんだろうか)」



その疑問だけが頭をぐるぐる回っている。それは奏先輩だけじゃない。真白先輩も真美ちゃんもそうだ。

なぜ私なんかを好きになってくれたのだろう。

そう思っていると、奏先輩は急にこちらを向くと、 真剣な眼差しで、 私をじっと見つめてきた。



「菜乃花。大丈夫か?」



心配してくれているようだ。いけない!こんなこと考えていたら奏先輩に心配されてしまう!



「い、いえ!全然平気ですよ!」



慌てて誤魔化すと、奏先輩は怪しげに目を細めている。……流石にバレたかな? すると奏先輩はフッと笑いながら、



「無理しなくていいぞ。何かあったらいつでも相談しろよ」



と優しい言葉をかけてくれて、嬉しく思ったが、やっぱり少し申し訳なさもある。



「はい。ありがとうございます」



「……今日もカフェに行こっか。丁度真白が働いている時間だし」



そう呟いた奏先輩は意地悪っぽく笑っていた。



△▼△▼



「は?何でこの時間に来るのよ……!奏……それに菜乃花ちゃんまでいるし……」



真白先輩は不満げに口を尖らせていた。

今日の衣装はメイド――ではなく、執事服だった。

白いワイシャツに黒のズボン、そしてネクタイというシンプルな格好だが、とても似合っている。男装している姿の真白先輩も素敵だと思った。



「何でこのタイミングで来るのよ?!私はメイド服の方の時間に来て欲しかったのに!」



「うるせ。私だって昨日は執事服の時の時間に来て欲しかったんだよ!嫌がらせだよ!」



2人は睨み合いながらも、楽しそうに話していた。やっぱりこの二人の関係性って良いなって思う。

私がそんなことを思いながら2人を見つめていると、



「で?注文は?早くしてよね」



「んー……。じゃあオムライスで」



「……私も同じのを」



奏先輩に続いて、私も注文をする。それを聞いた真白先輩は笑顔になり、 かしこまりましたー。と言ってクラスメート達に注文を伝えている。

しばらくして、真白先輩が頼んだ物を持ってきてくれた。



「はいどうぞ。熱いから気をつけてね」



そう言ってオムライスを渡してくれる真白先輩。昨日はクッキーだったので、オムライスは今日が初めてになる。

スプーンで一口食べると、卵とケチャップライスが混ざり合って絶妙な味になっていた。美味しい……!



「美味しいですね」



「まぁな。作ってる奴は気に食わないけど」



気に食わない――?真白先輩が作ったわけじゃないよね?真白先輩はウェトレスだから厨房には入れないはずだし……。

そんなことを考えていると、 奏先輩は食べ終わったようで、ごちそうさま。と言っている。え?もう食べたの!?



「早いですね……」



「まぁな。私食べるの早いんだよ」



確かに奏先輩はいつも早食いだけどさ……!でもまさかここまでとは思わなかったな……



「ま、菜乃花はゆっくーり食べなよ」



そう言いながら凄く……奏先輩がガン見してくる。……恥ずかしいし、食べにくいんですけど。

そう思いつつも、ゆっくりとオムライスを食べる。……うん。美味しい。

 


すると、奏先輩はクスリと笑いながら、 私の顔をじっと見つめてくる。何か恥ずかしくて早食いしてしまった。



「最後の方味わってなかったろ?」



そう言われてギクッとする。……バレてるのか。奏先輩鋭いな……いや、でもこれ奏先輩も悪いからね?! そう心の中でツッコミを入れていると、奏先輩はまた笑って、



「ま、別にいいんだけどな。羽田のオムライスなんて適当に食えればそれで良いし」



あ、これ羽田先輩が作ったんだ。だから気に食わないとか言っていたのか。なるほど。



「ま、んなことはどうでもいい。次行くぞ!」



奏先輩にそう言われると席を立ち、体育館にやってきた。あれここって……?



「あ。菜乃花先輩に……奏先輩」



真美ちゃんが手を振ってくれている。真美ちゃんの隣にいるのは……あ。この前凄く私に詰め寄ってきた人だ。確か名前は……

私が思い出せないでいると、



「菜乃花先輩来てくれて嬉しいです~~!昨日は来てくれなかったので寂しかったんですよ~」



真美ちゃんは私の手をギュッと握ってくる。相変わらずスキンシップが激しい子である。



「あいつ、来てなかったのかよ。……性格悪……」



ボソッと呟いた奏先輩の声が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにしよう。



「演劇するんでしょ?観に来たんだよ」



奏先輩がそう言うと真美ちゃんは笑顔で、



「ええ。そうなんですよ。楽しみにしててくださいね!」



と言った。真美ちゃん、中学の頃から自分の脚本で劇をしたいって言ってたもんね……。



「……まぁ、あいつの小説は目に見張るものがある。敵ながら天晴れだよ」



奏先輩はそう呟いていた。

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