『別人……?』

――際どいメイド服にチャイナ服。普段ならこんなもの絶対に着ない。着るのは恥ずかしいし、柄じゃないし。



だけど、



「お、お似合いですよ……!三人とも」



菜乃花に写真を撮られまくり、満足そうな笑みを浮かべる菜乃花の姿を見ていると、まぁ、たまにはこういうのもいいかなって思えたんだけど――



「私達に際どい服を着させて何をするんですか?菜乃花先輩。文化祭のコスプレの為って言ってましたけど本当は自分のためなんじゃないですか~~?」



真美が揶揄うように言う。

その言葉を聞いた菜乃花は淡々とした口調で言った。



「そうだね。三人とも似合ってるし可愛いから写真撮りたいっていう気持ちもあるよ」



ニッコリと微笑みながらそう言い切った。……変だ。いつもの菜乃花なら絶対にこんなこと言わないし、そもそも真美を煽るようなことをしないはずなのに……



「えっ……そ、そうなんですか……あ、ありがとうございます……」



真美も予想外の反応だったのか少し戸惑っている様子だ。珍しいな。あんな風になるなんて。



「………羽田さんに何か言われたの?菜乃花ちゃん」



真白はそう言って不機嫌そうだ。まぁ、羽田が関わっている時点で真白はめちゃくちゃ嫌だろうな……羽田に振り回される日々でも思い出してイラついているんだろう。

そんなことを考えている私だったが……



「………いえ。羽田さんは何も関係ありません。ただ私がそうしたいと思っただけです」



淡々とそう答えた菜乃花の表情を見て私は驚いた。だっていつもの菜乃花とは全然違う雰囲気なんだもん。

今の菜乃花はどこか冷たくて怖い感じがする……まるで別人みたいだ。

この変化の原因について考えてみたけれど思い当たる節がない。



「私、三人のこと大好きですから。だから沢山の写真を残したくて」  



……やっぱり変だ。菜乃花らしくない発言ばかりだし、それにあの笑顔。無理矢理作っているような気がする。



「……ねぇ、菜乃花ちゃん。本当のこと言ってくれないかな?さっきの言葉、嘘っぽいんだよ。羽田さんに言われて仕方なくやってるようにしか見えない」



ジロリと睨む真白に菜乃花は視線を合わせた後、目を伏せた。そしてゆっくりと口を開く。



「何言ってるんですか真白先輩……本心ですよ?」



「………あんた菜乃花ちゃんじゃないでしょ?」



今まで聞いたことのない冷たい声で真白は言った。

すると、菜乃花は小さく笑って答える。



「ふぅん。流石ね。真白ちゃーん」



声色が変わった瞬間、真白の顔つきが変わる。……羽田の声じゃねーか!! 急に変わったことに驚いていると菜乃花はニヤッとした顔でこちらを見てきた。



顔をペリペリ剥がすとそこには見慣れた羽田の姿があった。………顔をペリペリするなんて怪盗物の漫画でしか見たことなかったぞ……そんなくだらない事を考えながらも、



「で?菜乃花は何処なんだよ」



怒りを抑えつつ冷静さを装って尋ねると羽田はケラケラ笑いながら言った。



「だって~~、菜乃花ちゃんってばさー、やるって言ったくせに最後の最後でやっぱ恥ずかしいっ!とか言っちゃうわけよ。だから私が菜乃花ちゃんに変装したって訳。……要望を出すなら普段菜乃花ちゃんが言わなそうなことを言ってあげてもいいわよ?」




ふざけんじゃねーぞ。こいつは本当に……

今すぐぶん殴ってやりたいところだが、ここは学校内だ。暴力沙汰を起こすことは避けなければならない。

拳を強く握りしめながら必死に耐えていると、



「えー、じゃあ、羽田先輩、菜乃花先輩の声で好きよ。真美ちゃん、愛している。私のものになってください……って言ってくださいよ~」



そう言ってずいっと近づいてくる真美。菜乃花本人の口からじゃなく、羽田の口からでもいいのかよ……と私はそう思いながら真美を見ていると、



「好きよ。真美ちゃん。愛してる」



不意に羽田がそう言った。……完璧だった。菜乃花そのものにしか見えなくて、思わず鳥肌が立ちそうになる。だって一瞬見えてしまったのだ。菜乃花じゃないのに菜乃花の表情を……



だけどやはりダメだ。これは所詮真似事でしかない。例え、菜乃花そっくりに化けても羽田は羽田なのだから。



「………やっぱりダメですね。偽物は。本物には到底敵わない」



真美はそう言って深いため息をついた後、そして羽田の方へ目を向けてこう言った。



「で、羽田先輩。菜乃花先輩何処にいるんです?教えてください」



真剣な眼差しの真美を見ても羽田はいつもと変わらない様子だった。

それどころか、余裕の笑みを浮かべて言う。



「菜乃花ちゃんは帰ったわよ、もうここにはいないわよ。菜乃花ちゃんのことは責めないであげてね?」



そう言って羽田は去っていく。私はそれをただ見ていることしかできなかった。

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