『修羅場』

季節は八月。まだまだ暑い日が続く中、私は一人部屋の中で寝転がっていた。今日は誰とも予定が合わずに暇を持て余しているのだ。



私には友達がいないわけじゃない。ただ、みんなそれぞれ用事があるみたいだ。

それにしても暑いなぁ……。クーラーをガンガンにかけてるはずなのに全然涼しくならないや。



「………今日は小説を書く気にもなれない……これがスランプって奴なのかな」



いつもならスラスラと書けるはずの文章が全く思い浮かばない。まるで頭の中に霧がかかったようにモヤモヤするんだ。モヤモヤするのはいつだって――、



「告白の返事だよねぇ……」



私は何故か二人の先輩に好かれている。二人とも同じ部活の先輩で、一人は優しくて頼りになる人。もう一人はクールだけど実は優しい人なんだよね。

そんな人達から同時に好意を持たれたんだけど、正直どうすればいいのか分からないんだよ……。

  


だから保留にした。今は答えられないと言って逃げてる感じかな? でも、そのせいで最近はずっと悩んでばかりいる気がするよ……そしてそれだけじゃなく――。



「真美ちゃんも私のこと好きだって言ってきて……」



真美ちゃんというのは私の後輩だ。元々複雑な関係だったのが更に複雑になっちゃったんだよね……みんな優しいから。この現状に文句は言ってこない。



でも、今は文句言ってこないけどその内言われるかもしれない。その時なんて言えばいいんだろうね……多分何も言えないと思うけどさ。



こんな状況になった原因は私が曖昧な態度を取ってしまったからだ。それは分かってる。分かってるけど、それでもやっぱり今の状況に耐えられそうもないんだよね……。



私は――私は一体どうしたらいいんだろうか。誰か教えて欲しいよ……そう思っていると、



「………ん?電話?誰からの着信だろ?」



突然鳴り出したスマホを手に取ると画面に表示されていた名前は『川崎』となっていた。珍しいこともあるものだと思って通話ボタンを押して耳に当てると、



『あー、桜田さん?今暇?良かったら一緒に遊びに行きたいなって思って電話しちゃったんだけど大丈夫?』



……川崎舞菜。私と同じクラスの子……というだけだ。特に話したこともなければ特に仲良しでもない。稀に話すことはあれど、それはグループワークとかそういう時だけなのだ。



だから意味がわからなかった。川崎さんなら私なんかよりもっと仲良い友達もいるし、わざわざ私に連絡してくる理由がないはずだし。



何で私と遊びに――?



『桜田さーん?もしもーし聞こえてますかー?』



「えっ!?あっ!ごめんなさい!」



考え事をしていたせいで全く聞いていなかった。慌てて謝りながら返事をすると、



『ううん全然平気だよ~、それよりどうかな?駄目?かなぁ?』



電話越しでも伝わってくる甘い声。……今私は三人の女の子の告白を保留した最低な女だ。三人以外の女の子と遊ぶことなんて至極最低。なのに電話越しの彼女があまりにも縋るような声でそれがまるで――、



「(…………真美ちゃんみたい)」



真美ちゃんもこういう風に甘えたような声を出すことがある。その度に私はドキッとしてしまう。………いや、他の女の子を重ねるなんて失礼すぎる。



それに彼女は彼女であって川崎さんではないのだ。重ねるのは間違っているだろう。いや、でも――。



『ねぇねぇ、駄目?桜田さーん。今日が駄目なら明日でもいいわよ?ね?お願い』



あまりにもしつこい彼女のお誘い。そんなに私と遊びたいの……?どうしてそこまで……罰ゲームでもしてるのだろうか……?



『私さー……桜田さんのこと気になってるのよ。お願いよ』



あまりにも必死な声だったので断ることができなかった。そして私はつい言ってしまったんだ……。

――いいですよって。



△▼△▼



待ち合わせ場所は駅前にある大きな時計台の下。そこに向かうと既に川崎さんの姿が見えた。私服姿の彼女を初めて見たけどとても可愛らしい人だった。

少し長めの髪をサイドテールにして、白いワンピースを着ていた。そして私を見つけるなりパァっと明るい笑顔を浮かべ、こちらに向かって手を振ってきた。

そんな彼女に手を振り返したとき――、



「ふぅーん。川崎、やるじゃねーか」



川崎さんの隣に奏先輩がいた。………いや、何でいるんですかね……って思っていたら、



「ふーーーん。菜乃花先輩私達の海には行かなかったのにこの人の遊びには行くんだ。ふぅーーん?」



「もう……真美ちゃんてば……あれは家の用事だって言ってたから仕方ないよ……」



……何故か真美ちゃんも真白先輩もいるじゃん………!やばい――!これ……



「(し、修羅場じゃね………?)」



私は冷や汗をかきながらも心の中で後悔していた。

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