コールドスリープ婚活

ちびまるフォイ

今の古臭い価値観にしばられた人

婚活パーティを終えると疲れて早く帰りたかった。


「今回も収穫なし……。なんでこんなにダメ男しかあふれてないのよ」


「まあ、モテない人がいるから婚活パーティに集まるわけだしね」


「なにそれ。まるで私が死肉を漁るハゲタカだとでも言いたいの?」


「それだと男性ってゾンビの扱いになってない?」


「あーーーもう。ほんと生まれる時代まちがえたーー」


一緒に参加していた友達に愚痴を吐き散らかしてから家についた。

カバンを改めると、会場で配られていたパンフレットが入っている。


「こんなのカバンに入れてたっけ……?」


パンフレットは結婚相談所のものだった。

婚活パーティで気疲れする日々だったのもあり、相談所へ行くことにした。


「……というわけで、私に合う男性を探しに来たんです」


「承知しました。ではどういった男性がタイプで?」


「そんなにハードルは高くないんです。清潔感があればそれで」


「ではこの男性は?」

「NG。ブサイク」


「こちらは?」

「NG。ホストっぽい」


「こちら」

「NG。なんかイヤ」


その後もわんこそばのようなテンポで男性を紹介するも、

開始数秒でNGの評価が押されてしまい相談所の弾切れとなった。


「……うちで紹介できるのはここまでです」


「ええ!? もう!? 結婚相談所にわざわざ来たのに!」


「あなたが全部NGにするからじゃないですか」


「はあ……この時代、まともな男性っていないものね……」


「……でしたら、コールドスリープ婚活しますか?」


「……はい?」


「コールドスリープして、次の時代にまで眠るんです。

 男性会員もリセットされるので候補が広がりますよ」


「それよそれ! なんでもっと早く言ってくれなかったの!?

 私は今の古臭い価値観にしばられた男性にはふさわしくないのよ!」


「ではカプセルのほうに案内します」


相談所の職員がオフィスの奥へと案内した。

カーテンを抜けると、縦型のカプセルがたくさん並んでいて肌寒い部屋だった。


「他の人も……いるんですね」


「ええ、他の会員様もコールドスリープ婚活にチャレンジされてます」


「私は何年くらい眠ろうかな」


「目安として、10年で男性会員の完全リセットになります。

 30年で価値観のリセット。50年で生活環境もろとも更新されますよ」


「最初ですし、まずは10年で」


「かしこまりました。ではおやすみなさい」


カプセルの蓋を下ろすと、落ちるように眠りについた。

次にカプセルが開くとスマホの時計は10年後を示していた。


「あ、お目覚めですね。はじめまして」


「え、ええ……。ずいぶん老けましたね」


「私は10年働いてますから。男性会員を見ますか?」


「あ、はい」


相談所の職員が男性会員のページを見せる。

前に見たときと会員の顔ぶれがすべて変わっている。


「すごい、本当にリセットされてる!」


「10年も経ってますからね」


「それに……10年前より、若い人が多いですね」


「医療技術や整形技術も前より向上してますから」


「あ、この人! この人がいいです!!」


「承知しました。ではセッティングしますね」


結婚相談所が男性会員に連絡をとり、後日食事会へ行くことになった。

正直もうこれで結婚へと決めるつもりだったが。


約束の場所に現れたのはイメージと違う男だった。


「やあ、遅れてすみませんねぇ」


「あ、どうも……。なんか……相談所の写真で見たときと違いますね……」


「そうですか? まあカメラアプリ使ってますからね」


「ええ……?」


「アプリも進化してますから」


「NG。……やっぱり帰ります」


やってきたのは髪はボサボサで服はだらしない人だった。

清潔感のない男は即NGにしなさいと、おばの墓に立てた誓いがある。


相談所にその足で戻ってしまった。


「いかがでした?」


「ぜんっぜんダメです!! あんなのナシに決まってます!」


「なにがダメだったんですか?」

「全部ですよ!」


相談所の男性会員の写真を加工なしVerでチェックしていく。

どれもこれもダメダメで、結婚するにふさわしい相手ではない。


「もう! 10年ぽっちじゃ全然変わってない!

 もう一度眠ります! 次は30年!!」


「あちょっと! 勝手にコールドスリープ装置に入らないでください!」


「おやすみなさい!!」


装置のスイッチを入れて30年の眠りについた。

30年後に目をさますと前の職員の姿はなかった。


「男性会員を! 早く紹介してください!!」


「え、ええ……起きがけにすごいですね……」


男性会員は再度リセットされている。

技術の向上なのか、自分のいた時代よりもイケメンが勢ぞろいしている。


「すごい……! 未来に来てよかった!」


すぐに相談所に間をとりもってもらって、後日会うことになった。

会員の中でもひときわイケメンで清潔感のある男性だった。


待ち合わせ場所で待っていると遠くからでもわかるほどのイケメンがやってきた。


「あ、こっちこっちーー」


「すみません……遅れてしまって……」


「あ、いえいえ。私もちょうどさっき来たところなんです」


「……気を使ってそう言っているんでしょう?

 すみません、気を使わせてしまって。僕のようなウジ虫に……」


「そ、そんなことないですよ……?」


「いいんですいいんです。僕はどうせ……どうせ……」


「NG。もういいです」


その後も続く自虐にうんざりし、食事を切り上げすぐに相談所に戻っていった。

しこたま文句を言ってやろうかと思ったが、たまたま職員は不在だった。


「はあ……今回の男性もハズレね。

 ネガティブなんてありえない。

 一緒に生活していたら疲れちゃうわ」


職員もいないので勝手に男性会員の情報を次々に見ていくが、

どれもイケメンでハイスペックではあるものの性格面はわからない。


「私はこの時間にも若さという財産を失っていくのに、

 会ってから地雷もちの性格がわかるなんて非効率的すぎる……。

 こんなことしてたら、私はいつまでも結婚できないわ」


カタログから目を離し、ふたたびコールドスリープ室へ目を向ける。


「また眠ったとしても同じことのくりかえし。

 さっさと良い男性とゴールインできないかしら……」


コールドスリープで男性会員をリセットしても、

ふたたび始まる男性ガチャにふりまわされるのはもうこりごり。


自分の理想を叶えてくれる、ただひとりの男性さえ作れれば……。


「……そうよ。なんで探すばかりで考えていたのかしら。

 私にあう男性に作り変えちゃえばいいのよ」


コールドスリープ室に足を運ぶ。

過去の時代に見切りをつけた男性会員がすでに何人も眠っていた。


その中でひときわイケメンを探し当てる。


「身長もいい感じ。体型も理想をクリア。良さそうね。

 このひとは……あと50年後に目覚めるのね」


男性のコールドスリープ装置に細工をし、

繰り返し自分の名前をリピートさせ続けるようにした。


「これで50年後には私を好きになるように刷り込まれてるはず。

 私の50年後は理想の旦那を勝ち取った幸せゴールインよ」


自分のコールドスリープ装置の時間も男性会員と同じ残年数で設定し眠りについた。

50年もの刷り込みの成果が楽しみでならない。



プシュー。


50年後、コールドスリープのカプセルが開いた。


カプセルの外にはすでにバラの花束を持った男性がひざまづいていた。


「え、ええ!?」


「姫。あなたの目がさめるのをずっと待っていました」


待っていた男性は50年前に刷り込みをした会員だった。

効果はしっかり出ていた。


「僕の目が覚めてからというもの、あなたのことばかり考えます。

 眠るあなたの顔を見てからというもの結婚したくてたまりませんでした」


「うれしい!! 成果が出たのね!」


男性はおそらく目覚めてから秒で用意したであろう結婚指輪を出してみせた。


「姫。どうか私と結婚してくれませんか」


「もちろん!!! 努力がみのったわ!!」


ついに理想の夫をつかまえてゴールインにこぎつけた。


行き遅れだと寒い目で見られることもなく、

必死に取りつくろって婚活パーティへ参加することもない。


自分はひとりの男性に深く愛される価値のある人間だとここに証明された。


「ねえ、ちょっと気が早いかもしれないけど式場も決めちゃわない」


「そうだね。君の言うとおりだ。ただ、その前に紹介したい人がいる」


「紹介?」


「これから一緒に生活することになるからね。

 僕は君に隠し事はしたくないんだ」


「……?」


夫の紹介でやってきたのは、8ヶ月はあろうかというお腹の大きな女性だった。


「紹介するよ。彼女は僕のワイフ」


「はじめまして。あなたが妻になる人なのね。よろしく」



「え゛っ……えっ!?」


信じられない状況すぎて言葉がつまった。


「あ、ありえない……あなたすでに結婚してるのに、私へ求婚してきたの!?」


夫とワイフは目を不思議そうに目を合わせた。


「あなたこそ何を言ってるのよ。

 今の時代、結婚なんて何人とでもしていいに決まってるじゃない」


「まさか君……。結婚相手はひとりじゃないとダメとでも……?」


希少動物でも見る目でこちらを見てくる。

きっと同じ目を自分も向けているのだろう。



「こんなのおかしい! 私だけを愛していてよ!

 ずっとお互いを思い合って、二人で一緒に生活していく。

 それが結婚っていうものでしょう!?」



男性は100年の恋も冷めるようなトーンで答えた。


「NG。そんな古すぎる価値観を持ってるなんて思わなかった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コールドスリープ婚活 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る