運動会の勇姿
@Suio-Kyoka
騎馬戦
「それでは、次の競技は騎馬戦です。」
アナウンス担当の放送部は高らかに声をあげる。
同時に選手たちは、応援席から校庭の中央へと歩み出る。
「じゃあちょっと行ってくるから。」
さっきまで、私の隣に屈んでいた大きな背中がゆっくりと起き上がる。
「で…でも」
私が次の言葉を言うのを阻むように、
「これぐらいの、なんてことないから。」
と彼が言う。
彼の手には、先の競技である綱引きの、綱によって出来た傷がある。足には、これまた先の競技であるリレーで出来た傷がある。どちらも、まだ止血されることなく、痛々しく出血している。
「せめても、救護テントで絆創膏くらいは……」
私は言った。
それでもそんな心配の言葉を振り切って、彼は校庭へ出て行った。
「騎馬戦ぐらい格好つけさせろよ。」
確かにそう聞こえた。
これがカッコいいと思った私は、どうなのだろうか。
戦いから帰ってきたらとびっきりの笑顔で迎えてあげよう。絆創膏と、消毒液を用意して、手当も私がしよう。でも、どうか神様あの人を無事に帰してください。
そんな乱世の奥様みたいなことを思いながらの応援だから、正直終始かっこいいかよりも、心配が勝ってしまったことを彼には言うまい。
運動会の勇姿 @Suio-Kyoka
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