【KAC20233】クリスマスまでに帰るよ
大月クマ
ある兵士の手紙
親愛なるジェーンへ。
頭のいい君なら、僕がこんな手紙を送っていることに、察しが付いていると思う。
駅で、君と別れるときに約束したこと。
クリスマスまでには帰る。
そう君に伝えたが、どうやら守れそうにない。
新聞ではどう伝えているだろうか?
憎き
だが、それは真実じゃない。
僕も含めて、皆、毎日小銃を抱え、塹壕の中でふるえているだけだ。
塹壕から首を出せば、すぐさま機関銃の弾が飛んでくる。この地獄から抜け出すのには一番の方法だ。
空は飛行機が飛び回り、爆弾を落として去っていく。最近では、友軍の機体に機関銃を載せて、爆弾を落とす前に撃ち落としてくれる。
だけと、空を覆い尽くさんばかりの敵機をすべて落としてくれるわけじゃない。
結局、小銃を抱えて、爆弾の雨が止むのを耐える日々だ。
敵はさらに恐ろしい『毒ガス』を使ってくる。黄色や白い煙に包まれると、嘘のようにバタバタと戦友が死んでいくんだ。
単なる霧さえ、そう思えてしまう。
この塹壕の中が、一番安全だとおもうだろ。だけど、水はけの悪いグチャグチャの地面が、永遠と続いている。本当の雨が降れば川になり、晴れていても足下はぬかるんだままだ。
塹壕病って、皆が呼んでいる。
皆、ぬかるんだ泥の中に足を突っ込んだままだ。
革靴に染み込んでくる。
この戦争に最初の頃からいた奴は、ましな靴が支給されていたようだが、最近配属されてくる兵士の靴ときたら……靴底がすぐにめくれてしまうのばかりだ。
ああ……せめて、乾いた靴下がほしい。
残酷な話を書かなく手はならないが、本当に辛い。
ふやけた足に靴下が張り付いて、皮膚ごとめくれた奴もいるんだ。
ヒドい奴に至っては、足を切断するものもいる。
ひょっとしたら、本国で見かけてないかい?
足首から先が無くなっている帰還兵を。
こんな恐ろしいことを、君への手紙に書いて申し訳ない。
でも、誰にかに語らなければ、伝えなければ、戦場の現状を。
地獄のような日々が続いていることだけは、知ってほしい。
そして、この地獄から抜け出し、帰った時は笑顔で出迎えてほしい。決して泣かないで。
ジェーンへ、変わらない愛を込めて。
○○○
×××
【この手紙は、検閲により破棄】
【KAC20233】クリスマスまでに帰るよ 大月クマ @smurakam1978
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます