推しだらけのぐちゃぐちゃ修羅場

秋雨千尋

推し三銃士

「この二人の結婚に異議のある方はいますか?」


 神父さんがそう告げると、手が上がった。


「異議あーり。マネージャーは俺のだから」


 アイドル育成ゲームの推しが、きらびやかなステージ衣装で立ち上がった。うわあああ格好いい。鼻血出る。


「ボクも異議ありです。あるじ様は渡しません」


 西洋武器を擬人化したゲームの推しが、自分(レイピア)を胸に当てながら宣言した。細いなあ、目がキラキラだなあ、最高に可愛いなああ!


「自分も異議あり。社長、遊んでないで仕事してください」


 経営シミュレーションゲームの推しが、メガネを直しながらため息をついた。さすが秘書。鋭利な刃物みたいな眼差しに射抜かれるー!



 ……推しが結婚を邪魔しに来るなんて、なんて私に都合のいい夢なんだろう。



 ◆


「それで式の日取りだけどさ、母さんが絶対にこの日がいいって。ドレスも決まっているから。引き出物もこれだって」


 お母さんの意見ばっかり。


「こっちの親戚は全員呼ぶから、そっちは厳選してよ。テーブルひとつ分だけね」


 自分の事ばっかり。


「あとさあ、いつ仕事辞めるの。女なんだからパートで充分でしょ。二世帯住宅になったらやること増えるし、介護の資格も取ってもらうし」


 頭がぐちゃぐちゃする。

 この人、私のこと全然好きじゃない。

 そして私も全然好きじゃない。なのに結婚しようとしてるんだ。


「私、仕事やめないよ。それに同居もイヤ。お義母かあさんの介護なんか絶対にしない」


 彼氏はコーヒーカップをテーブルに叩きつけた。


「それ、マジで言ってんの?」


「うん」


「はあ、時間の無駄だった。二度と会わない」


 会計もしないで出ていく。手切れ金がコーヒー代だけで済んで良かった。


 ◆


 元彼は別の人と結婚した。私は仕事を頑張っている。新しいプロジェクトを任されて、後輩もできた。毎日が忙しくて楽しい。


「マネージャー」

「あるじ様」

「社長」


 大好きな推しは、いつも側にいる。

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推しだらけのぐちゃぐちゃ修羅場 秋雨千尋 @akisamechihiro

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