猫と缶詰

夕暮 春樹

第1話

「美咲ー、今日一緒に家で遊ばない?」

「ごめん、今日はちょっと用事があってあそべないんだ。また今度一緒に遊ぼ。」


最近の私には、学校終わりに楽しみにしていることがある。

友達の遊びの誘いも断って、小走りでいったん家に帰る。そしたら、親に内緒で魚の缶詰を持ち出して、家の近くにある神社に向かう。


「しろー、今日も来たよー。」


名前を呼ぶと、草むらからニャーと鳴きながら白色の猫が出てきた。

そう、最近の楽しみはこの猫に会うこと。

毎日学校が終わったら魚の缶詰を持って会いに来ている。しろに会ったのは、学校帰りに弱っている猫が道路の隅で倒れているのを拾ったのが始まりだった。家で飼おうとしたけど、親にダメって言われてしまったので、こうして親に内緒でご飯をあげに来ている。しろはいつも美味しそうに魚の缶詰を食べている。その姿を見ると私はどんなに大変なことがあっても頑張れる。

でもある日、いつものように魚の缶詰持って神社に行ってもしろが居なかった。


「しろー、ご飯持って来たよー。」


その日はいくらしろの名前を呼んでもしろは出てこなかった。仕方がないのでその日は家に帰った。でも、次の日もその次の日もしろが神社にくることはなかった。


「ねえ美咲、最近元気がないけど何かあったの?」


学校帰り、久しぶりに友達と帰っていると友達がそんなことを聞いてきた。

私は親に内緒で猫のお世話をしていること、そして最近になってその猫が居なくなってしまったことを友達に話した。


「きっと飼い主が見つかったんだよ。」


友達はそんなことを言って私を元気づけてくれた。

でも次の日、もうちょっとしろのことを捜してみようと神社にいった。しばらくの間捜していると神社の裏で一匹の白い猫が死んでいるのを見つけた。

私はそれを見た瞬間に何も考えられなくなった。信じたくなかった。

でもそれは、どう見てもしろだった。私の大好きなしろだった。

私はその場で泣き崩れた。雨が降ってきたのも気にしないで、ひたすらに泣いた。雨で地面がぐちゃぐちゃになるまで泣いた。

泣きやんだ後も心がぐちゃぐちゃのままで何も考えられなかった。

家に帰っても、ずっとしろのことが頭から離れなくて、ずっとしろのことを考えていた。

すると、窓からニャーと猫の鳴き声が聞こえた気がした。急いで窓を開けるとそこには何も居なかった。

ただ一つの魚の缶詰が置いてあるだけだった。

きっとしろが天国にいく前に置いていったんだろう。そう思うと心のぐちゃぐちゃが少し晴れた気がした。

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