はあれむのなく頃に【KAC2023】

Cランク治療薬

はあれむのなく頃に

 この世は自然から生まれたマナで出来ており、生物は自然に属することで、その属性を宿す。それすなわち、山、沼、島、平地、森なり。

 山は沼に弱く、沼は島に弱い、島は平地に弱く、平地は森に弱い、森は山に弱く、それは生物にも作用する。


「わたしたち別れましょう」

「なっ、魔王を倒したら付き合ってくれると約束したじゃないか」


 揉めているのは平地属性の戦士ラルフと森属性の女エルフであるエターニアだ。


「そう魔王がいる玉座の間の前にまでやっときたわ。山勇者様のおかげでね。でもあなたなんか普通なのよ、やっぱり平地属性ね。ねえガント私と付き合ってくれませんか、でないと戦えなさそう」

「ふん、色恋沙汰などくだらん。敵を切り、倒すこれ以上に勝る愉悦があるだろうか」

「そういう脳筋なところも好きっ」

「エターニア思い直してくれ、頼むなんでもするから」

「もういいでしょうあなたとは終わったの、そうだちょうどいいじゃない、そこのつるぺたと付き合いなさいよ」

「ええ、わたしがラルフ様とですか……あの……わたしは構わないっていうか、喜んで」

「エターニアそれはないよ、ないないいくら俺でもつるぺた島僧侶だけはないって」

「はうあ」


 この世界には属性があり、その有利属性は恋愛事情にも影響する。そう、この世界にはハーレムパーティは存在しない。魔王がまだ討伐されていないのは、戦術的に有効なパーティを組もうと属性を散らばせると決まっておこるのが男女間の問題だった。そう、ぐちゃぐちゃである。


 その時大広間に恐怖を体現させたかの声が響く。


「我の眠りを妨げるのはお主らか、生きて帰れるとは思うなよ」


 奥の重厚な扉が開き、凶悪で膨大な魔力が溢れ出す。勇者パーティはすでに萎縮してしまっていた。山勇者の剣が力なく地面に落ち乾いた音を立てる。


「ふはは、我は沼属性を司る魔王。お前たちをなぶり殺しに」

魔王がパーティを見渡し、島僧侶に目を止めた。


 つるぺたが恐怖のあまり失禁しそう。


「いや捕らえて、永劫の恐怖を」


 つるぺたが泣きそうになる。ふええと言っている。


「いや鑑賞用に優雅な生活を」


 つるぺたが涙をこする。


「いや、その我とともこの世界を滅ぼし……」


 つるぺたがふるふると顔を横にふった。


「いやあなた様にこの世界を捧げます」


 この日沼属性の魔王が陥落した。勝因は一目惚れである。この裏で実は山属性の勇者が魔王に惚れているのはまた別の話。


 そう、ぐちゃぐちゃである。

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