ただ一目、会いたくて。
センセイ
1.好き
「私、R.B.ブッコローさんが好き」
出会いは突然で、一瞬だった。
友達の見ていた動画の中。
カラフルな髪の毛に隻眼で、一見するとちょっとチャラそうなのに、私より低いであろう背や片手にいつも大事そうに抱えられた本。
そのギャップに、私は一目惚れだった。
「辞めときなよ、こんな男」
裕子ちゃんはそう言うけれど、でも、好きになってしまったんだもの……。
「R.B.ブッコローさんのあのカッコ良くて愛らしい見た目、楽しそうによく喋る姿、たまに私の知らないネタも言うのが好き」
私が目を輝かせて言うのを見て、裕子は呆れたようにため息をついた。
「……それって全部じゃん」
「そうなの、全部好きなの」
そこからの高校生活は、R.B.ブッコローさんづくしだった。
朝と夜の『おはようブッコローさん』と『おやすみブッコローさん』の時間は欠かさなかったし、R.B.ブッコローさんのグッズを手作りしたり、ほんの小さく載っているだけの非売品グッズでも集めてきたし……私が一番、R.B.ブッコローさんの事を好きだって言える生活をしてきた。
……そうしているうちに、あっという間に私の高校生活は終わっていた。
****
「
「はいっ!」
皆が大学生になった頃、私は有隣堂のアルバイトの仕事に就いていた。
高校はバイト禁止だったから働けなかったけれど……これでやっとR.B.ブッコローさんに会える!
……田舎な家からは、一番近い有隣堂だと電車で一時間かかる。
これから少し大変だろうけど、R.B.ブッコローさんに会えるなら……。
「『R.B.ブッコローさん』?……何それ?」
えっ……?
「あぁ、あのフクロウの事ね」
「店長、あれはミミズクだって何回も……」
「 来たこと無いんですか?! 」
店長と女の人が話しているのを、私はつい大声で遮ってしまった。
「えっ……?」
「!……すみません……」
咄嗟に謝ったものの、頭の中は混乱して考えが全く纏まらなかった。
(どうして……だって、ブッコローさんは……)
その日、私は全く仕事に身が入らず、店長にもこっぴどく叱られてしまった。
(はぁ……私ってダメな人なんだわ)
……せっかく、R.B.ブッコローさんの有隣堂に就けたのに。
とぼとぼと私が歩いていると、
「 危ないっ!! 」
「え?」
いつの間にか渡ってしまった赤信号。
叫んだ女の人の悲痛な表情。
後ろから眩しいくらい照り付けられるライトの光……。
ドンッ…
辺り一帯に、重く鈍い音が響いた。
私は……トラックに跳ねられて、宙を舞っていた。
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