第60話

 さて、警戒感を持ちながらも訪れた実習二回目の日。僕は今回もグスタフと二人でシェイザ領東の遺跡でのダンジョン探索に挑んでいた。ちなみに、ライラとサイラが“笛”の聞こえるぎりぎりの範囲に潜んでついてきているのも前回同様で、ラセツもそっちに同行している。

 正直、ラセツは拠点で待っているかなと思っていたけど、意外と仲間意識というか、それに近い感情を持ってくれていたらしい。……あるいは、実はあいつが寂しがり屋ってだけかもしれない。

 

 まあ、挑むなんて言い方はしたものの、そんな大げさなことにはなっていないし、なりそうもない。

 

 「こちらも変わらないな」

 

 進みながらグスタフが呟いたように、内部の雰囲気は前回のルートと同じ。一本道が続くのも、東西の入り口のちょうど中央部にちょっとした広間があってそれが折り返し地点に設定されているのも同じだ。

 

 「こっちに出るスケルトンはちょっと強いけどね」

 「……そうか?」

 

 数少ない違いを指摘すると、グスタフは今斬り伏せたばかりのスケルトンが消えていくのをみつつ不思議そうにした。

 消えたばかりの場所に落ちた素材である硬骨を拾いつつ、僕は補足を口にする。

 

 「前回の道に出たスケルトンは武器がもっと朽ちてボロボロだったでしょ? この硬骨もちょっと質が高い」

 「言われてみれば……」

 

 この間出掛けた時にラセツとの手合わせをし損ねたからってこともないだろうけど、グスタフは元気が有り余っているようだ。こっちにでるスケルトンの多少はましな朽ち方をした武器ごと魔獣を両断していたもんだから、違いなんて気にもならなかったってことなんだろう。

 

 そんな風に一応は魔獣がより強くなっているから、こっちの探索が二回目となっていた訳だね。特に前回苦労した班は入念に準備をしないと怪我じゃすまないぞというありがたい訓示もジャック先生から事前にされていた。

 

 

 

 そして数少ない違いのもう一つにして、決定的に前回とは違う箇所へと僕らはほどなくして辿り着く。

 そこは石造りの通路が急に開けた場所で、その事に既視感を覚える。だけど、その既視感はすぐに違和感へと変わる。……当然、前回のルートとは違う場所だからだ。

 

 「これが……そうか」

 

 グスタフが寄っていったのは人が何人か並んで見られるくらいの大きさの石碑。それがもう一つのルートでは空の棺があったくらいの場所に置かれている。

 

 「確か……」

 「この遺跡がただの通路であることを示す内容だったはずだ」

 

 碑文の内容を思い出そうとする僕に、グスタフが教えてくれた。そうそう、「ここは通路」みたいなことが、妙に回りくどい古代語で書いてあるとかなんとか、そんな感じのことを授業で習った。グスタフのシェイザ家にしてもそれを解読できたことでもうそれ以上に検証も何もしていないのだろうけど、ゲーム『学園都市ヴァイス』での例のイベントを知っている身としては……“通路”っていうのに別の意味があるんじゃないかって考えてもみてしまう。

 まあゲームではこの碑文については真の意味どころか読むこともできなかったんだから、ここで僕が思いを巡らせても何かがわかるはずもない。

 

 「それはそうと、大丈夫だったのか?」

 「……うん? ああ、うん。問題ないね」

 

 この場所で悪い事が起こる可能性があるという情報は共有している。だからグスタフとしても僕がレテラを習得する前に、変な気配とかはないかと聞いてきた。特に気配の察知という面では、解析のレテラの副次効果で周囲を探れる僕の方が優れているしね。

 

 改めて意識してみたけど、次の班は感知できない……つまり、前回同様かなり後ろ。

 ついさっきすれ違ってきたひとつ前の班はまだ少し近いけど、こちらは離れていっているから問題ない。さっき一瞬だけ動きが止まったようだったから、魔獣に苦戦しているようなら善意の振りして追っ払うために加勢にいかないといけなくなるところだったよ。

 

 さて、これならわざわざ解析の魔法を発動してまで警戒する必要もなさそうだ。とはいえ、ここから先起こる事には一応警戒を緩めないようにしないと。レテラの習得の方ではなくて、どっちかというと石碑が怖いよ。何せあれこそがゲーム『学園都市ヴァイス』のイベントで『アル・コレオ』が飲み込まれて消えた次元の狭間が発生する位置なんだから。

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