第57話
戦闘・戦術科の最初の実習は一度目の後、一週間を挟んで二度目の探索をする。そしてその間の一週間というのは半分が休みで、もう半分が半日授業となっている。
最低限の座学はするものの、この一週間は準備や休養にあてる判断も含めてダンジョン探索というものを体験するのが実習という訳だ。
で、その休日のうちの一日で、僕はグスタフと一緒にラセツを連れだしていた。ヴァイスの大通りに出ているような露店には学生街らしくボリュームのある飲食物も多く、食いしん坊鬼にはちょうどいいと考えたからだ。
休みの一日を割いてわざわざご機嫌取りなんて……と思うかもしれないけど、これはわりと素直に親睦のため、だ。
当ての薄い人探しを目的とするラセツの好感度を稼いでなし崩しに仲間に引き入れようというのと同時に、どういう考え方をして……あわよくばどの程度の実力かをこちらも知りたい。ちょっと打算的だけどこれも立派な親睦だ。
「おっ、これもうまいのじゃ」
現状ラセツは両手に持った串肉を交互に食べ進めている。あの封印装置の詳細は不明だけど、長く飲まず食わずだったみたいな感覚はあるのかな。それで飢えの反動で食いしん坊鬼になっているとか……?
とか、どうでもいいことを考えていたんだけど、ふと隣を歩くグスタフの顔色が冴えないことに気付く。
「まだ引きずってる?」
「いや…………まあ、な」
何をとは言わずに聞いたけど、最初は否定しかけたグスタフが結局最後には頷いた。まあ僕としてもわかっているから聞いたんだし。
その引きずっていることというのは、もちろん僕がサティにぼろ負けしたあの日、グスタフとライラ、サイラもヴィオレンツァとインガンノの側近コンビに負けたということについてだ。あの後で互いに情報交換はしたけど、向こうも完敗だったみたいだ。
グスタフはヴィオレンツァに押し負け、ライラはインガンノに魔法戦で圧倒され、サイラはどちらに仕掛けても軽くあしらわれたらしい。
「僕らが慢心していた……というのは大きいんだろうけど」
「けど?」
それだけじゃない、という僕の言い方にグスタフが食いつく。あの敗北は自分たちを強いと思って成長への貪欲さを失っていたこと以外にも原因があったと、時間が経ったからこそはっきりと思っている。
「作戦も何もなかったからね。僕が単独で戦わされたし、グスタフとライラは向こうの得意な状況だったんだろうし。サイラにしても本当は奇襲こそが本領……だしね」
グスタフはヴィオレンツァ相手に最初は食い下がれたらしいんだけど、いきなり劣勢だったライラを気にしてかばいながらじゃどうしようもなかったらしい。ライラは頭を使って場を制圧するようなタイプの魔法使いだから、遭遇戦みたいなのよりは狩場に誘い込むのが本来の戦い方。そして極めつけのサイラは伏せておくべきだったのに、僕が呼んで戦うように指示してしまった。
まあその辺も慢心があったっていうのがあるんだけど……。
「もう一人いればどうにかなったともおもわない?」
「それは……そうだが」
僕はそう考えていた。グスタフ並みに強い前衛か、僕並みに戦える魔法使い。それがいれば、あれだけの格上相手の状況でも、油断さえしなければ撤退くらいはできたように思う。
「まあ、様子を見て……にはなるけどさ」
「そうだな」
今度は肉がメインのサンドイッチを頬張っているラセツを見ながら僕が言うと、グスタフは何度も頷く。今日は親睦のためにラセツを連れだしたんだけど、もちろんどれほどかっていうのも見せてもらう気ではいた。
どれほどっていうのは、もちろん戦闘能力の話だ。その為にライラたちには別行動で、学園の方に行ってもらっていたんだから。まあ、どのくらいまでラセツが手の内を見せてくれるかっていうのは気分次第だろうから、あわよくばってことではあるんだけど、ね。
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