第35話

 といってもゲーム『学園都市ヴァイス』でのとあるイベントの登場人物としてしか記憶がない。確か仲間にすることもできるキャラクターだったはずなんだけど、面倒そうな性格設定だったから敬遠していた。

 『ユーカ』は一言でいえば女版マイク・コレオだ。正義感が強く、曲がったことが嫌いで、困っている人を見たら放っておけない。たしかそんな感じだったはず。

 

 で、なんで興味ないようなことをいっておいて、そのとあるイベントは覚えているのかっていうと、それが『アル・コレオ』が最初に登場するイベントだったからだ。主人公が入学式の後で学園内を歩いていると、揉めている二人の生徒を発見する。それが『アル・コレオ』に不正入学だろうと詰め寄る『ユーカ』だった。

 劣等生の『アル・コレオ』が名門であるヴァイシャル学園に入学できたのはコレオ家の権力で不正をしたという噂。そんな陰口を偶然耳にした『ユーカ』は我慢できずに本人に直接問い詰めたっていう出来事だ。

 それを見た主人公が仲裁に入ったことで、それぞれのキャラクターの紹介がされるとともに、ストーリーを通しての敵役である『アル・コレオ』に主人公が“気に食わない庶民”として認識されるという役目も果たす。

 

 「こちらこそよろしく、ユーカ君」

 「……よろしく」

 「ええ、二人共ご丁寧にどうも」

 

 にっこりと笑みを浮かべて僕はユーカと握手を交わし、その後でグスタフも続いている。

 大柄なグスタフにも、物怖じしないユーカはなんというかゲーム『学園都市ヴァイス』でのイメージ――ほぼ無きに等しいものだけど――通りだな。

 

 そして僕の笑みは心からのものだ。これが確認できただけでうれしくもなるってものだよね。

 ユーカが僕をアル・コレオだと認識したうえで、こうして友好的に声を掛けられた。これは彼女からの糾弾イベントは避けられたということで、つまり悪役貴族としての死亡フラグが順調に遠のいているということだ。

 まあ目前に迫った最大のイベントである裏組織関連をどうにかしないかぎりは、何もかもが無駄になるんだけどね。つまりは本当に気を引き締めるのは僕にとってはこの後っていうことだ。

 

 席についてグスタフとぽつぽつと会話しつつ周囲をうかがっていたけど、ゲーム『学園都市ヴァイス』で見覚えのある顔もちらほらとある。

 そんな中で目に付いたのは……黒髪でよく似た顔の男女二人組。長い髪を横結びにした女の方は愛想よく周囲と紹介なんかしあって入学したての学生らしい振る舞いだけど、問題はもう一人の髪を短く刈ったワイルドな雰囲気の男の方だ。

 二人は僕らとは離れた位置に座っているのに……やっぱりこちらを睨んでいる。ちらちらと間を置きながらでバレないように窺っているのかもしれないけど、敵意が隠しきれていないというか、僕らだけでなく間の席にいる生徒も気付いてるだろうこれ。

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