後宮住まいの宝石商

狭倉朏

後宮住まいの宝石商

第一章 後宮の宝石通

第1話 石の呪い

「呪われていると思うんです」

 揃って赤い目をした宮女3人は、うつむきながらそう言った。


 3人の対面に腰掛けた女官はじっと彼女達を見つめた。

 女官の名前は玉蘭ぎょくらん

 襟のない長裾スカートに、透けた紗絹しゃぎぬを羽織っている。服の色形は質素ながらも物は良く、彼女が忙しく動き回るような立場でないことは一目見て取れた。結い上げた髪には二、三の石がついたかんざしを挿しているが、その石もかんざしの金も質が良く、彼女の身分か財力、どちらかあるいは両方がそれなりであることを言外に示している。


 この後宮で赤い目をしている女達を見ると、泣き腫らしたのかと思ってしまいそうなところだが、玉蘭にはひと目で違うとわかった。

 ――かぶれ、アレルギー、湿疹……原因はまだわからないけど、とにかく疾患による腫れ。

 冷静に彼女は宮女たちの症状を見つめ、続けて胸元に目をやる。

 ――金剛石ダイヤモンド、真珠、瑪瑙めのう、か。

 彼女たちはそれぞれ小指の先ほどの石を首飾りにして首から提げていた。

 それらは守り石と言った。この珠国しゅこくでは、人は産まれたときにお守りとして石を贈られる。どんなに身分の低いものでも、どうにかして宝玉を手に入れる。不純物が多かったり、小さすぎたり、形が悪かったり、そういうものはなんとか安価で手に入る。どうしても金がないのなら、川原の石を拾ってくることさえある。大切なのは石の価値そのものではなく、親が子に願いを込めて送ったという事実だ。

 よほど狭量な妃嬪ひひんに仕えているのでもなければ、後宮においてはどんな身分の女でも守り石だけは飾りとして身につけることが許されている。

 ――でも、守り石によるかぶれではなさそうね。

 そもそも3人が同じ症状を出し、違う石を身に着けているのだ。守り石が原因というわけではあるまい。

 しかし、彼女たちは何らかの石の関与を疑っている。

 そうでなければ、玉蘭のところには来ない。


 この宝玉宮ほうぎょくぐう玉官ぎょくかんのところには。


 後宮というところは女が一度入れば滅多なことでは出ることができない。

 そうなると後宮の中に住む彼女たちの守り石の手入れをする人間が必要になる。

 かんたんな手入れなら素人でもできる。

 しかし、傷がついた。汚れが落ちない。欠けてしまった――。

 曲がりなりにも石である以上、なんだかんだと面倒ごとはつきない。

 地方のどんなに小さな村でも一人か二人は守り石磨きという職業のものがいて、守り石に起きた問題を解決してやっている。それの後宮における役職が玉官に当たる。

 普通の宝飾品であれば、手入れや修理などは外の職人に預けてしまえばよいが、守り石だけはそうはいかない。

 何しろ産まれたときから持っているお守りなのだ。一日だけでも手放すことを不安がるものは多い。

 だからこうして後宮の中には守り石専門の職があり、今は宝石商の娘である玉蘭が女官としてそれに就いている。


「詳しく聞かせてください」

 玉蘭は宮女たちを促した。

 お互いに目配せをしてから、真珠の宮女が口火を切った。

「4ヶ月前、同期の宮女が病に伏せり、3ヶ月前に亡くなりました」

 玉蘭はうなずきながら話を聞く。

 宮女が病で死ぬ。まあ、よくある話だろう。後宮には何千という女がいる。その中の一人が死ぬことくらいは茶飯事だ。

 その宮女が誰かにとって特別な相手だとしても。

「亡くなる前、彼女は私達3人に自分が死んだら守り石を託すと言ったのです」

「そのかた、後宮の外に身寄りは?」

 守り石を持ち主が死んだときにどうするか。それには様々な方法があり、地域や時代によっても違う。

 しかし基本的には家族に託すことが多い。裕福な家であれば、そのまま弔いの品として死者とともに副葬したり、墓や祭壇に飾ったりもする。あるいは貧乏な家であれば、新しく産まれてくる子の守り石にするために取っておいたり、生活の足しにするために売ってしまったりもする。

 どちらにせよ、持ち主がこのようにしてくれと頼めば、基本的にはそれに従う。売っていいと言われたならば売ってもよいし、売ってくれと言われたならば売らなくてはならない。

 そして後宮において死者の守り石は、遺体とともに家族の元へ帰る場合が多い。

「いませんでした。私達、皆そうです。身寄りはありません。生きるために後宮へ入りました。たまたま同期で、たまたま高夫人こうふじんの宮殿に配属されて、だから、4人で慣れない都でお互いを励まし合いながら生きてきました」

 玉蘭は静かにうなずき話を聞く。

「ただ問題もありました。私達は3人だけれども、石は1つ。しかし彼女は3人に託すと言った。これはどうしたらよいか? それを話し合っている中、案が出ました。すり潰して顔料として使いましょうって」

 それもまた決して珍しい使い方でもない。故人を偲んで家の飾りや肖像画に故人の守り石を使うのも、よくある話だ。

 美しい宝玉はものによってはすり潰しても美しい色が出るのだ。

「確かにそれなら3人でも使える。私達みたいな庶民の持つ守り石は、形も良くなく小ぶりだから売ろうとしたところでさほど価値もない。二束三文をやまわけするよりは、潰してしまった方がいいだろう。4人でそう決めて、届けも出して、そうしてから彼女は亡くなりました」

 守り石を死後に託す先を決めたなら、後宮では宝玉宮に届けを出す。そうしておけば面倒な諍いや誤解が少なくなる。

 玉蘭は傍らに無言で控えていた宦官の白英はくえいに目配せする。白英は長身の色男。本来は玉官ではないが、わけあって玉蘭の補佐として宝玉宮に勤めている。

 白英はうなずき、奥の書庫へと向かった。

 書庫には近い年代の書類が収められている。古いものだと他の所へ移してしまうが、3ヶ月に亡くなった宮女の届けなら、まだあるだろう。

「続けてください」

「はい……。私達は彼女の守り石をすり潰し粉末にして小さな壺に収めました。そしてそれで目元を彩りました。我々の主である高夫人は艶やかなものが好きで、宮女であってもお洒落を許してくださいます。むしろ推奨してらして、べになんかのお下がりをぽんとくれてしまうほどです。そういうこともあって、私達は彼女の守り石を特に化粧道具として使うことにしたのです」

「そうしたら、揃って目が腫れた、と」

「はい……私達、守り石に呪われているんだと思います。あの子……あの子の石を、すり潰したりなんてしなければ……。おとなしく玉塚ぎょくづかに納めていれば……」

 玉塚とは、行き場を失った守り石をまつる塚である。後宮では身寄りもなく遺言も遺せず亡くなる女も少なくない。そんな彼女たちの守り石は玉塚に納められる。

「でも、彼女はあなた達にその使い方で良いと言ったのでしょう? それとも、それは虚偽なのですか? あるいは、何か無理矢理にでも届けを出させた?」

 玉蘭の問い詰めに、宮女3人は顔を見合わせる。

「……いえ、いえ、そんなことは」

「そうです! 誓ってそのようなことはありませんでした!」

 真珠の宮女は声を詰まらせ、瑪瑙の宮女は大声で、そして最後の1人、金剛石の宮女は暗く俯いた。

「……でも、もしかしたら、あの子には無理矢理に思えたのかも」

「そんなこと……そんな……こと……」

 大声を出した瑪瑙の宮女は否定しようとして、否定しきれなかった。

「だって! 私、あの子の守り石、羨ましいって言ったことあるわ。緑色で、綺麗で、まるで高貴なユーみたいって……!」

 金剛石の宮女がそう叫んだ。

 ユーとは宝玉の中でも、長きにわたりもっとも貴ばれてきた軟玉ネフライトのことを指す。

 王族の守り石は大抵ネフライトだ。貴族や官僚は王族にはばかって、守り石にネフライトを選ぶことは少ないが、田舎の金持ちであれば、王族に会うことなどまずないので、あまり気にせずにネフライトを選ぶことはよくある。

 そして3人の宮女はちらりと玉蘭の胸元を見た。そこに光るネフライトの宝玉を見た。田舎の商人である馬家の娘の守り石。

 宝石商の娘だけあって、玉蘭の守り石は高貴な妃嬪のそれらに引けを取らない品質に大きさだ。

 柔らかな光沢があり、不透明。緑がかっているがどちらかというと白に近い。

 さらに細工も細かい。蘭の花の意匠が彫られている。馬家一番の職人が手がけた一級品だ。

 ――なるほど、その目でその子の守り石も見たというわけだ。

 3人の目は、羨望に染まっていた。

 きっと玉蘭がこれを欲しければ何かやれと言えば、よほど難しいことでなければ彼女達はおとなしく従うだろう。

 そういう欲深い目をしていた。

 しかし玉蘭はそれに気分を害することはない。

 良い物を見たら欲しくなる。そのようなことは当たり前のことであり、その感情があるからこそ、商人というものは成り立つのだから。

「私達が、本当はあの子の意に沿わないことをしていて、だから守り石に呪われた……そうは思いませんか、馬玉官」

 金剛石の宮女が縋るような目でこちらを見た。

「思いません」

 玉蘭はきっぱりとそれを否定した。


「馬玉官」

 そこに白英が戻ってきて、玉蘭に声をかけた。手には帳面を持っていて、すでに頁を開いている。

「ありがとう」

 玉蘭はそう言って、白英から帳面を受け取る。

 そこには3人の宮女と同じく高夫人に仕えていた宮女の守り石に関する遺言が記されていた。

 じっくり読む。記されている限り、手続きに特に問題はなかった。

「……それで、その守り石の粉末は?」

 帳面を伏せ、玉蘭は尋ねた。

「……こちらに」

 真珠の宮女が小さな壺を取り出した。手のひらに簡単に収まる大きさだった。そして壺は朱色の布に包まれていた。朱色は時に魔除けに使われる色である。

 玉蘭はためらわずさっと布を取り払った。

 壺にはご丁寧に魔除けの札まで貼られていた。この後宮でどう手に入れたのやら。

 玉蘭はその札も迷わず引き剥がす。

「ひっ……」

 息の漏れるような悲鳴が宮女たちから上がった。


 そして壺の中には、確かに青々とした緑色の粉末があった。

「……うん、確かに」

 すべて帳面に書いてあったとおりであった。

 その頁が作られた日付は4か月前だった。玉蘭の赴任前なので、記載がきちんとしているか不安だったが、問題はなかった。

 そう、何も問題はなかったのだ。

「安心なさってください。これは呪いではありません。かぶれです。医官のところでそう言って手当を受けてください。適切な治療さえすれば、そのうち腫れもひきます」

「かぶれ……。たしかにそうも見えます……。いえ、でも……」

「あの子はこの石をずっと身に着けていたのに……?」

「石の状態と粉末の状態では、毒性が異なることはよくあることです。特にこの石は、この輝きは、砕かれていてもわかります、これは孔雀石マラカイトです」

 孔雀石――孔雀のように鮮やかな緑を持つことから名付けられた石。またの名を石緑ともいう。

 その石の特筆すべきは――。

「マラカイトは美しい石です。しかし実は不純物が多く含まれています。それ故、粉末にして肌に触れるとかぶれやすい。ただ、それだけのことですよ」

 そう。本当にただそれだけだ。守り石の呪いなどではない。そんなものはありはしない。しかし、宮女たちは、そういったことも知らないくらい、宝玉には疎く、本来なら縁遠い。

 後宮に来なければ、彼女たちがマラカイトと邂逅することもなかっただろう。

 庶民の手に入る守り石はその土地の近くでよく採れるものであることが多い。

 金剛石は比較的広い地域で取れるが、真珠は珠国の北東、瑪瑙は西方、そしてマラカイトは南西で採れるのだ。

 彼女たちの出身地は恐らくバラバラだったのだろう。

 珠国は広い国だ。遠い地域のことはお互いよく知らない。

 だから生き残った3人はマラカイトの特性を知らなかった。

 ただ、それだけだ。


 3人の宮女はすっかり安心した顔をした。

「そうだったんだ……」

「よかった……」

「だから言ったじゃない! 私達何も間違っちゃいないって!」

「…………」

 玉蘭は3人のやり取りをじっと見つめた。じっと、じっと。

「……それで、この粉末、どうされます? 化粧にはもう使わない方がよいと思いますが」

 玉蘭は壺を持ち上げ、彼女たちに尋ねた。

「ど、どうしましょう……」

「あの子は別に3人で使うなら使い道は指定しなかったけど……」

「でも顔料として使うにしたって、化粧以外だと私達に使い道なんて……」

「……では、こうしましょうか? 私が何か小さな、そうですね木に嵌めた鏡でも贈ります。その木の顔料として、残ったマラカイトを使う。これならどうでしょう。3人で鏡を使えば、遺言通りになるのでは?」

「たしかに。でも、よいのですか? そんなお手間を……」

「構いません。このくらいは。では、こちらはしばらくお預かりするということで。完成しましたら、そちらに贈りますね」

「ありがとうございます! 馬玉官!」

「ああ、あなたに相談してよかった」

「玉官が不在の半年間、私達、それはそれは不安で……」

 宮女たちの感謝の言葉に玉蘭は静かに微笑んだ。


 そうして3人の宮女たちは胸を撫で下ろし、笑顔で帰って行った。


「ふー……」

 残された玉蘭は大きなため息をつき、白英は彼女にお茶を出した。

「いや、お見事。女性だからと突っぱねることなくあなたを玉官に採用してよかった!」

 白英はそう言って、勝手に玉蘭の正面に座った。咎める気にはなれなかったし、そもそも白英は玉蘭が咎められるような相手ではない。訳あって玉蘭の補佐をしているだけで、本来の彼は玉蘭より立場が上だ。白英が玉蘭に見せているのは、専門職への敬意であって、立場による敬意ではないのだ。

「……よく言うわ。前任の玉官、宦官たちを粛清で追いやっておいて……。それさえなければ、知識ある玉官がいれば、あの届けはそもそも受理されてなかったはずよ。マラカイトの守り石を粉末にするならまだしも化粧に使うのは推奨できないってね」

 玉蘭は後宮に来て、まだ半月ほどだ。

 そして玉蘭が玉官になるまでの半年間、後宮に玉官は不在だった。

 3ヶ月前に亡くなった宮女が守り石の届けを出したのは4か月前だった。ちょうど玉官は不在で、ただ事務的に届けは受理された。届けの内容を、精査するものがいなかった。

 理由はさっき言ったとおり、粛清である。

 皇帝は病を得ていて、もうあまり長くはない。

 幸い跡継ぎである東宮とうぐうはすでに長じている上に、立派な人物であったから、彼が皇帝を継げば万事問題ない。そう思われていた。

 しかし、後宮の中に渦巻く政治と陰謀は根深く、東宮に害をなそうとした一派がいた。

 皇帝の名において彼らは粛清され、玉官も引き継ぎなどする間もなく、皆消えた。

「いえ、ですから、天子様による粛清で職を追われた玉官は前任7人のうち4人だけですよ。そして残り3人は殺されたのです、何者かに」

「…………」

 玉蘭は黙り込んだ。

 玉官が粛清で後宮からいなくなった。そして半年後、とうとう女官が玉官に取り立てられた。

 それが世間の知る玉官にまつわる筋書きだ。

 玉蘭自身、後宮に来るまではそう聞いていたし、そう思っていた。


 しかし、そうではなかった。


 玉官の数名は、真っ当な粛清ではなく、正体不明の何者かによって暗殺されていた。

 その理由も何もかも、今はまだ不明のままである。


「はー……早くやめたい。玉官」

 志と野望を持ち、後宮の女達のために玉官になることを決意したはずの玉蘭だったが、今ではすっかりそんなきな臭い職務にすっかり嫌気が差していた。

 しかし彼女の義務感と白英ひいてはその背後にいるらしい偉い人たちの圧がそれを許さない。

「ですから、後任の玉官さえ育ててくれれば、いつでもお帰りいただけます。女官の玉官は前例がございませんから、規定はゆるゆるです。故にそこらへんは無理やりどうにかなります。します」

「じゃあ、後任あんたがやりなさいよ、学びなさいよ。なんだって教えるから」

 これを言うと白英はいつも「自分は武官ですから」と断ってくる。

 白英は不審死が相次いだ玉官の護衛として皇帝直々に任命されていて、本職は武官らしい。前職はなんと東宮の護衛だとか。

 つまり玉官3人を殺した下手人を特定し捕まえろというのが白英本来の役割だ。玉蘭はそのための囮なのだ。まったく迷惑千万な話である。

「できませんよ、自分には」

 今日の白英は珍しくそんな断り方をしてきた。

「あんなふうに呪いを解くなんてこと、できません」

「だから呪いなんてないって……」

「呪いでしょう、これは。守り石ではなく、亡くなった宮女の」

「…………」

 玉蘭は黙り込む。

「生き残った3人の宮女は孔雀石の特性を知らなかった。ええ、そうでしょう。そうでなければああはなりません。しかし、亡くなった宮女は知っていた可能性が高い。違いますか?」

「……お前、やっぱり玉官の後任になりなさいよ。武官と言い張ってても頭の良さが隠しきれてないわ。ついでに育ちの良さも」

 玉蘭は白英の言葉を否定しなかった。できなかった。

「……そうよ、身寄りももうない貧しい宮女。きっと彼女は知っていたわ。自分の出身、南西でよく採れるマラカイトが顔料に使われていること、そしてその顔料はかぶれやすいってこと」

 玉蘭は伏せていた帳面の中身にもう一度、目を落とす。そこには亡くなった宮女の出身地まで書かれていて、それは確かにマラカイトの産地と名高い場所のすぐ近くだった。

「それなのに、彼女は止めなかったのよ」

 宮女3人は言っていた。守り石をすり潰して使うのを決めたのは、まだ亡くなった宮女が生きていた頃のことだと。

 止められたはずだ。忠告できたはずだ。しかししなかった。

 いや、そもそも守り石を擦り潰そうなんて提案自体、恐れ多くて守り石の元の持ち主以外誰が言い出せるだろうか。3人の宮女は誰が言い出したかは言わなかった。なんなら忘れているのかもしれない。しかし恐らくそれを言い出したのは他ならぬ死んだ宮女だったのではないだろうか。

 きっと宮女はわかっていた。わかっていて、見逃した。むしろ仕向けた。

 そしてそれが何を理由にしていたのかは、3人の宮女が言っていたことの中に入っているのだろうか。それとも何か他の理由があったのだろうか。それについては――。

「なんにせよ、死人に口無し、よ。言いたいことがあったのなら、不満があったのなら、こんな嫌がらせをするのなら、生きているうちに言うべきだったのよ、この宮女は」

 そう言って、玉蘭は帳面を閉じた。

 この話は、ここでおしまいだ。これ以上、呪いを深める必要など何もない。


「……まあ、喋る死人もごくまれにいるけどね」

 玉蘭はポツリとつぶやいた。

「何か?」

「……いや、なんでも。お茶のおかわりを」

「はい、ただいま」

 白英がお茶のために席を立つ、それを見送り、玉蘭は目を伏せた。

 そうすると、いつものように浮かんできた。

 あの夢が。

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