【KAC20233】何がなんだかぐちゃぐちゃで
天猫 鳴
第1話 目覚め
目を覚ました
「あぁ、寝ちゃってた」
伸びをして大あくびをする晴空の隣で、ベッドにもたれかかったまま優季は眠っている。少し前まで晴空も同じように並んで寝ていた。
晴空と優季は生まれる前からのお隣さん。
仲のいい幼馴染みのまま気心の知れた17歳の高校生になっていた。
もう一度あくびをして伸びをして、そして飲みかけのコーラを口に運ぶ。優季はまだ寝たままだ。
「よく寝てるなぁ」
2階にあるふたりの部屋は向かい合っていて、子供の頃から
今日も帰宅後から優季の部屋で雑談をしてゲームして、TikTokのダンス動画を真似て踊ったりして遊んでいた。疲れて休憩したつもりがいつの間にやら寝てしまっていたようだ。
見慣れているはずの優季の寝顔に、ふと目が止まった。
だいぶ傾いた日差しがやわらかく彼女の顔を照らしている。オレンジがかった日が色白の顔を甘く
(・・・・・・女、なんだよな)
生物学的に優季が女であることは百も承知だ。
しかし、男友達の感覚が染み付いてしまっていた。晴空にとっては中性的な顔立ちをした幼馴染みの美少年。
バレンタインには晴空より優季の方が沢山チョコをもらっていて毎年完敗している。子供の頃に空手を習っていたなごりか、体の軸がしっかりしていて運動をさせると格好良さに拍車がかかった。
そんな優季が言った言葉を思い出して、晴空はどうしたものかと彼女の寝顔を見つめた。
『スカートに切り替えるタイミング・・・・・・見つからん』
何気ない会話の1つ、短い文章がやたらと鮮明に記憶されていた。
毎日のように優季を見ている晴空でさえ彼女がスカートやワンピースを着てる姿を見るのはまれだった。この前見たのが何年前だったか思い出せない。
『楽なんだよな。動きやすいし無茶苦茶動いてもパンツ見えないから安心だし、気に入ってる』
もともと活発なボーイッシュ女子。優季はショートヘアで、サッカーに野球なんでもお手のもの。
17歳男子の平均身長にわずかに足りないくらいの優季は、女子のなかに入るとやはり高身長で男っぽく見える。実際そこらへんの男子より格好いい。
いつもパンツルックのせいもあって、女だと言うことをつい忘れて男友達と同じように接してしまっていた。
(肩組んだり抱きついたりされるの、実際どう思ってんだ?)
BL好き女子が影できゃあきゃあ言っていることは知っていた。でも、見た目がどうであれ男と女であって男同士じゃない。好きにさせておけ・・・・・・と言うのが晴空のスタンスだった。
(あれ? 待てよ? 男と女だと逆にベタベタしすぎて問題ありか?)
女子と接する時の自分を思い返してみるが、優季以外の女子に触れたことはほとんど無い。男女関係なく気さくに話をするものの、女子の肩をとんとんした記憶すら無い。
(セクハラとか言われそうだからなぁ)
優季とは裸の付き合いをしてきた。それは当然ながら幼少期の事ではあるが。
晴空も中学の頃に恋に目覚めた。
髪をいじり服装を気にしてコロンまでふったことがある。優季がそのまんまな方が変なのかもしれなかった。
(やっぱり、女子的な格好したいのかな。一応・・・・・・優季も女子だし)
晴空はベッドにもたれかかったまま体を優季の方に向けて本格的に彼女を観察する。ベッドに置いた手で頭を支えて見つめた。
(いつから気にしてたのかな。最近か? なんで気になり出したんだろう?)
そこまで考えてがばっと身を起こした。
(まさか・・・・・・恋? 好きな人ができたのか!?)
これまで好きになった女の子の話を聞いてもらい相談してきたが、優季から好きな人の話を聞いたことはない。
(身なりを気にしだすって、それしか考えられない)
自分がそうだったから晴空の導きだした答えはこれ1択だ。
(え? 嘘だろ? 誰だ?)
なんだか胸がざわつく、どこか不安で心配な感じで、急に落ち着かなくなってきた。
(ちょっと待て、対象は誰だ? 男?)
テレビで見る俳優や男性アイドルを見て優季が格好いいときゃっきゃしてたのを見たことがない。むしろ女優さんや女子アイドルを可愛いとよく言っていた。
(・・・・・・まさか、女?)
女友達の肩に手を回してる優季の姿がパッと頭に浮かんだ。女子の和の中で楽しそうにキラキラとした笑顔の優季。
女子友が優季の腕に手を回してしなだれてるのを何度か見たことがある。優季の回りはいつでもハーレム状態だ。
(心は男ってことか? やっぱり? やっぱりって何だよ!)
頭がぐるぐるする。トランジェンダーという単語がふと浮かんだ。確かに優季はずっと男の格好をしてるし女子とつるんでる。
(女子が好き? 優季は男になりたいのか?)
胸がざわざわする。
(だからってそうとは限らないんじゃないか?)
否定する方が心が静まる気がした。
優季がもし男になりたいならそれはそれでいいと思う。けれど、なんだか釈然としない。
(スカート履きたいんだよな・・・・・・ってことは、心は男子ってのは無しだ)
ほっと溜め息をつく自分に気づいて目を丸くした。
(なにホッとしてるんだ?)
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