お母さん
単三水
お母さん
隣でぐちゃぐちゃと臓物を弄る音が聴こえる。一人の大きい人影が見えた。お母さんだ。いや、両親と言ったほうが正しいだろうか。
私の両親は科学者で、自分すら実験材料にしてしまうような人だった。キメラの研究をするためまずは自分達でと言って、お父さんをぐちゃぐちゃの肉塊にしたのはお母さんだった。カマキリや蜘蛛の雌は交尾後の雄を食べてしまうとお母さんは言っていたが、お母さんは食べるというより…身体の中にお父さんを入れ込んでいた。脳をお母さんの中に移植されたお父さんは今も意識があるし、なんなら日中イチャイチャしている。傍から見れば一人芝居だ。お母さんの身体が大きいのもお父さんの身体の肉を使っているからである。
「おや、クノ。起きてたのか」
「うん。眠れなくって」
兄妹の臓物を弄り終えたお母さんが水槽越しに隣で見ていた私に気づいた。お母さんにとっては日常茶飯事なので取り繕ったりもしないが、私は一般常識というものを身につけている。この状況は異常だ。それを私とヤツネちゃん以外は知らない。いや、学習性無力感で諦めてるだけかもしれないが…。昔は適当に買った奴隷を実験台にしていたようだが、今はその制度も撤廃されているため私達実子を使っている。もうちょっとマシな人が親だったら良かったのだが、子は親を選べないものである。なので、明日此処を脱走することにした。
水槽から身を乗り出し、どたりと床に落ちる。その瞬間、全身から高温の火が吹き出し私の身体をどろどろに溶かした。そのまま身体が燃えたまま再生し、ぐちゃぐちゃになる。痛みに負けてはいられない。昔、奴隷の魔族であったゼロという少年がここから逃げ出すことができたという話を聞いた。この通気口が脱出口になっているはずだ、どうせ水に浸かれば身体は元通りになる。ヤツネちゃんと合流し、外の世界を目指して暗い小さなトンネルへと入った。
お母さん 単三水 @tansansuiriel
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