閑話:釣り師の……猫? 2/2

「魔物だにゃ」


 そう、魔物だ。

 茂みから姿を表したそれは、五匹の狼型の魔物。

 背中に赤い毛のラインを持ったそれは、レッドウルフとも呼ばれるものだ。


 少数の群れで活動するが、脅威度がそこまで高いわけではない。


 ……まあ、私なら余裕だね!


「下がっててください! 大丈夫です、私がやりますから!」

「いや、レニも戦うにゃ」


 私がそう言って前に出ると、レニさんは剣と盾を持って、彼らに向き直った。

 そういえば、護身用の武器は持っていたのか。


「分かりました」


 私は短く返事をして、雷の魔法を素早く用意し、一匹の狼の方へと撃った。

 様子見をしていたらしい彼らの一匹と、それから雷が伝播した一匹の合計二匹は、それを避けられず、悲鳴を上げながら倒れた。


 辺りに肉の焦げるような匂いが漂う。


「ギャウ!」


 すると、それがトリガーになったのか、彼ら三匹は私の方に一斉に向かってきた。

 私は冷静にそれを見ていた。

 身体強化もあるし、避けて雷や水、石の魔法を叩き込めば――


 と、そんな考えをしていると、横から相当な速さでやってきたレニさんが、その狼のうち一匹の首を叩き切った。


「ふんにゃ!」


 首が飛んで血しぶきが上がるが、レニさんはその飛沫には当たらず、すぐさま次の獲物に狙いを定めていた。


「……えぇ?」

「ふむ、中々やるのだな」


 一発で首を叩き切るのは流石に予想外だ。

 しかし、私はそれから目を離し、後ずさりをしている残り二匹に、石礫せきれきを放つ。

 頭を狙ったそれは、少し狙いを外れて首の辺りに着弾し、勢いよく貫通した。


 なんだか首を撥ね飛ばしている辺り、素材として狙っていそうだから、私も素材として使える形で討伐したのだ。


「にゃあっ!」


 すると、レニさんは決死の覚悟で飛びかかってきた狼の攻撃を盾でいなし、掛け声とともにまた首を撥ね飛ばした。

 地面にドサッと倒れ込むそれをよそに、レニさんはそそくさと先に倒した方の狼の処理を始めた。


「準備できたら、撤収にゃ。長居すると、他のやつが寄ってくるからにゃ」

「あっはい……」


 随分慣れているらしい。

 ……いやまあ、考えてみればこんなところで釣りをしているのだから、当然ではあるのだが――その口調でその性格だと、困惑せざるを得ない。


 ◇


『お前、冒険者にゃのか?』

『はい、そうですよ。一応冒険者やってます』

『……そうかにゃ』

『?』


 まあ、そんなやり取りがあったのだが――


「イリアさん。レニという方からお届けものがあるようですよ」

「ん? 何かあったんですか?」


 あの狼の魔物を処理した後、レニさんはあれを全部くれると言っていた。

 そのまま次元収納魔法でしまって、レニさんとは別れた。


 次元収納魔法は、術式によって、中身の時の流れが遅くなりはするのだが、止まるわけではない。特に足の早いものは、すぐに処理するのが賢明なのだ。

 ――それで、それを納品すべく冒険者協会まで来ていたのだ。


「ええ。なんだか魚の……刺し身? でしょうか」


 すると、受付の人は水色がかった麻袋に入れられた何かを差し出してきた。

 魚保管用の素材でできた袋――えっとつまり、あの時の魚の捌いた後の姿だろうか?


「あー、なるほど。覚えはありますね。貰っておきます」

「あと、伝言がありまして――えっと『適当に調味料を振るだけでも美味い。フィルという猫と一緒に食べてくれ』と言っていました」


 わざわざフィルで名指しらしい。

 それが少し面白くて、私はくすっと笑って返した。


「ああ、そうなんですね。ありがとうございます」


 えーっと、確かどこかの国で買った調味料の中には、魚に付けると美味い『醤油』とかいうのがあったはずだ。

 ……腐ってないといいけど。


 踵を返して、どこか空いてるテーブルを探していると、フィルが話しかけた。


「いいものを貰ったな」

「だね」


 ――ちなみに、結局醤油は腐っていなかった。

 魚の方も、醤油で美味しくいただいておいた。

 実際、味は良かったしね!

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