世の貴族男性の見る目がなさすぎると同僚がお怒りなので同意しました。後悔はしていません
どこかのサトウ
シスターミリアの愛は最後まで分からない(短編)
王都の一等地にそびえ立つ荘厳な大聖堂は、人類の繁栄と安寧を司る女神を祀るために作られた。
教会の権威を示す意味合いも強いが、そこは神から魔を払うための力が与えられる重要な拠点でもある。
シスターミリアが学院から送り出した卒業生は、そこで勇者としての力を得て各地へと派遣される。
勇者としての第一歩は、神の祝福を得て勇者の力を顕現させること。
その奇跡を一目見ようと、大聖堂には上流階級の貴族たちが集まっていた。
当然、聖女学院の関係者も出席しているのだが、やはり身分によっては足を運べない者もいる。
シスターミリアは教会に籍を置いているが、彼女の父は伯爵。貴族であるため問題はない。
同僚も皆貴族であり、この式典に参加している。美しいドレスを身に纏って化粧もバッチリだ。
久しぶりの外だ。大変な気合が入っている。
が、貴族たちの視線は生徒たちに向けられ見向きもされない。
「なるほど、今年も粒ぞろいですな」
「あれなんて御子息にどうですかな?」
「ふむ——」
神聖な儀式を見せ物にするのはどうかとは思うが、教会を運営する資金が少なからず彼ら貴族から出ていることを考えれば、当然の結果なのかもしれない。
近頃は教会に対してあまり良くない噂も流れ始めている。やはり綺麗ごとだけでは難しいのだろう。
聖女の一人が、飾り気のないロングソードを生み出すと、ギャラリーが盛り上がる。
「何もないとこから剣が!」
「奇跡だ!」
「あれが聖剣。地味ですな」
そして彼女は聖剣の力で、鈍く輝く鉄の鎧を身につけたのを皮切りに、周囲の聖女たちも勇者の正装であるバトルドレスを身に纏う。
だが名を馳せる勇者が身につけるような、細工が細やかで華やかな白銀の鎧とは違う。
洗練さのかけらもない無骨な鎧は、初級冒険者の初級装備より少しお洒落であると言ったところだ。
「あれなら私が抱えている冒険者の方がずっと良い装備をしているし、強いでしょうな」
まぁそうですねと、心の中でシスターミリアは同意した。
勇者は戦いに身を置くことで、鉄、銅、白銀とその鎧を変化させていく。
彼らは青田買いをしようとしているのだ。白銀にまでたどりつける勇者はほんの一握りだ。となれば尚更である。引く手数多であり、陣営に取り込もうと動くなら今しかない。
シスターミリアは思う。いつか私が受け持った生徒たちの名が、私の耳に届くのだろうかと。
将来が楽しみだなと彼女が思っていると、同僚たちがイライラしながらやってきてミリアに話しかけた。
「本当に見る目がないですわ!」
「全くです!」
「シスターミリアもそう思ませんこと?」
「えっ?」
急に話を振られたミリアは目を丸くする。
「誰も彼も、若い子ばかり見て! 白銀の良い女ならここにいるでしょうに!?」
「あぁ、まぁ、そうですね」
全くもってその通りなので、シスターミリアも同意する。白銀まで上り詰めた元勇者なのだから、見目麗しいのは当然だ。
だが世の貴族男性に全くもって相手にされないのは、単純に結婚適齢期を過ぎてしまったからだ。
シスターミリアは教職に就くと決めたとき、結婚は諦めたのだが彼女たちはまだ諦めていなかったようだ。
同じ女性として見習わなければならない部分だとは思うも、彼女が聖女学院で教鞭を持った瞬間、結婚は無理だと悟ってしまった。
生徒の中には貴族の子供もいる。自然と聖女学院は乙女の花園となり、男性との出会いが皆無になった。
この後に待つ、数少ない神父との顔合わせで選ばれれば、冒険者として活躍の場が待っている。
世間から華やかな印象を持たれている勇者はこちらの勇者であるのだが、そこで溢れれば、勇者部隊に配属されて最前線で活躍することになる。
ミリアも同僚も最前線組だ。そこで活躍するような勇者は、他の勇者からも化け物扱いされるほどだったりする。
めげずに複数連れだった男性に声をかけるも、断られた同僚たちは頭を掻き毟った。
「キーッ!」
服も髪型もぐちゃぐちゃになっていた。化粧も崩れている。
「ミリアさんも探しなさいな!」
同僚の姿はまさに化け物であった。圧倒されて泣く泣く参加したものの、やはり相手にされず帰りに同僚たちと屋台でヤケ酒を飲んだ。
シスターミリアも一緒になって世の男性の悪口を言い合った。それはとても楽しい時間だった。
めでたい日なのだ。少しくらい羽目を外しても誰も文句は言わないだろう。
化粧も髪も美しかった服もぐちゃぐちゃになったシスターミリアは微笑むのであった。
おわり
世の貴族男性の見る目がなさすぎると同僚がお怒りなので同意しました。後悔はしていません どこかのサトウ @sahiri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます