犯人はこの部屋の中にいる

くらんく

昔いっしょに遊んでた女の子

「部屋がぐちゃぐちゃに荒らされている……」


 帰宅早々最悪な事態に見舞われた俺は驚きと恐怖で体が動かなかった。玄関に立ち尽くし、どこに連絡するべきかとか、部屋を片付けるのが面倒だなとか、警察に被害届を出したら明日は会社を休めるかなとか様々な事を思考する。


 するとキッチンの奥、扉を一枚隔てた部屋の方から物音がした。犯人がまだ中にいる。俺は気付かれないように靴を脱いで部屋にあがり、身近にある武器としてそこらへんに転がっていたフライパンを手にしてゆっくりと歩を進める。


 意を決して引手に手をかけ、勢いよく戸を開く。


「わっ、なに!?」


 そこにいたのは、まるで自分の家かのごとく横になりながら漫画を読んでいた一人の少女だった。


「誰だお前」


 まったく見覚えのない少女が自分の家に居座っている。もし彼女が空き巣だったならこんな所で漫画なんて呼んでいないだろうし、本当に誰だコイツは。


「私の事忘れちゃった?」


 少女は立ち上がり、俺の事を正面から見つめる。しかし全く思い出せない。こんな可愛らしい、恐らく年下の少女など俺の交友リストには入っていない。もしいたならどれほど嬉しいだろうか。


 彼女は体を左右に振っていじらしい様子を見せながら口を尖らせた。


「昔いっしょに遊んでたじゃん」


 そう言われて頭の中にしまわれた、埃を被った記憶を必死に漁っていく。実家の近所の住人、小学校か中学校の同級生、あるいはスポーツクラブや塾で一緒だった知り合い。いや、年下ならばその妹である可能性もあるし、男の子だと思ってたあの子が実は女の子だったってパターンも考えられる。


 それとも大学時代の後輩か?ゼミに入るのが2年の後期からだから、俺が4年生の時に半年だけ会ったことがあるのかも。あとはサークルという説もある。サークルならば学年が離れていても交友があるはずだ。


 俺は彼女との接点をそれはそれは一所懸命考えた。頭の中がぐちゃぐちゃなるほど考えた。だが。


「もういい!」


 残念ながら時間切れ。俺がなかなか思い出さない事に業を煮やした彼女は、怒った様子で部屋を出て行ってしまった。


「はぁ……」


 タイプの女の子と仲良くなれるチャンスを逃した俺はため息をついて窓の方を見た。


「あっ」


 そこには窓ガラスが割られ、侵入された形跡があった。


「あの女……」


 思い出そうとしても思い出せないわけだ。彼女は知り合いでも何でもなく、本当に部屋でゴロゴロしていただけの空き巣だったのだから。

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