異世界でハンバーガー売ってます

凰 百花

第1話

 私のクラスが異世界へ召喚された。


 増加した魔物を倒し、その原因の魔王退治まで含めて請け負ってくれる勇者を召喚したんだって説明された。まあ、修学旅行のバスが事故ったところを召喚したんだそうで、戻っても死んでると言われた。ここにいるのはバスに乗っていた全員じゃなかった。先生や運転手さん、あと何人かのクラスメイトはここには居ない。死んだ人だけがここにいるって言われたので、居なかった人がいることで余計にリアルに感じた。それでお決まりの鑑定になったんだけど、まあ半分強が戦闘系のスキルで残りが生産系のスキルにだった。剣聖だ賢者だ、勇者だ聖女だっていうので盛り上がっていたけど。

 最後に私の番が来た。出席番号順に一人一人前に出て鑑定を受けることになったのは、先生がいないのでクラス委員が取り仕切ってたからかな。王様の前に設置してある鑑定の石版に手を置くとスキルとかが出てくるんだけど、私は自分のスキルに戸惑っていた。スキル名がコントン、今までになかったスキルだと言われた。で、レベルがグチャグチャ。レベルって普通は番号とかじゃないのと突っ込みたかったけど、そうなんだから仕方がない。でもグチャグチャってグチャグチャだよね。なんとなく使い方はわかったので、そばに居た兵士さんから籠手を借りて、両手で挟んで【グチャグチャ】って念じてみた。そばで見ていた兵士さん、鑑定の石版のところにいたお爺さん(神官さんだとか言ってたかな)、王様達、とにかく皆引いちゃった。私だって引いちゃったよ、自分のことなのに。だって、籠手って金属だったんだけど、手の中でグチャグチャの塊になっちゃった。あれ、レベルじゃなくて状態じゃないのと自分に突っ込んだ。ごめんなさい、元には戻せない。

「触って、念じるとグチャグチャになるスキル」ということで、色々と実験させられた。陶器類や家具なんかは砕けてグチャグチャになった。金属や紙、布みたいなのは割れないけどグチャグチャの塊になった。納屋でやったときには、壁を触った納屋自体はなんともならなかったんだけど、中に入れてあったものがグチャグチャになった。面白いことに中のものはあんまり壊れてなかった。下敷きになったりして壊れたものとかあったぐらい。最悪だったのが生き物。死んだ犬をですね、触ったのですよ。スプラッターでした。辺り一面、血が飛び散って、当然私はブラッディ…。役に立たたないどころじゃないですよね。魔物を触れば一発でスプラッターにできるんじゃないかと言われましたが、体術も何もできない私なんて魔物に触れる前に自分がスプラッターです。自慢じゃないですが、運動神経は0です。

 クラスメイトたちとは、この頃あまり話す機会がない。みんな、自分たちのスキルを伸ばすのに懸命だというのもあるけど、仲が良かった彼女がこちらには来ていないせいもあるかな。生き残った人たちは、あんまりひどいことになっていないといいなと思っている。高速道路で後ろから衝撃が来たみたいだし、前方にいた人たちはこちらには来ていない。バスの座席は出席番号順にきまってたから、彼女は一番前、私は一番後ろになった。あれが運命の分かれ道だったのだろう。

クラスメイトが取り立てて冷たいわけでもないと思う。戦闘系の訓練にも生産系の練習にも付き合うことがないから、話すきっかけも話題もないし。


 なんでもグチャグチャにする能力しかないので、お城の人たちは引き気味だ。メイドさん、色々とお世話になっているけど昨日ちょっと触っちゃっただけで腰抜かされた。「申し訳ございません」って真っ青な顔で謝られたけど、仕方ないと思う。そこで相談役に話を持ちかけた。

「私の能力は戦いにも、バックアップするための生産にも向きません。ここでお世話になり続けるのも申し訳ないので、街で生活したいと思います。できれば最初の活動資金をお願いできればと。」


 触ることさえ出来れば相手はスプラッター、でも運痴の私を武器にするのは難しい。一つ間違えば自分がグチャグチャになるかもしれないのに、私に指導したがる人物がいるかどうか。ということで、許可が降りた。


 半年後、王都の片隅でテイクアウトのハンバーガー屋さんの調理兼看板娘に。最初は食堂の下働きで働き始めた。そこで賄にハンバーグを作ったのは、半端肉があったのをどうにかできないかと思って集めてグチャグチャにしてみたから。固くなったパンと玉ねぎもグチャグチャにして混ぜて作ったら好評で、お店のメニューになった。日々グチャグチャしてたら、作業も上達して制御がうまくなって一回で処理できる量も増えていった。卵を混ぜるのにも有能。でも、一度に2種類以上のものをグチャグチャにするのはできない。一つ一つを丁寧に作業していく。


 毎日毎日下準備をしてたら、ある日、

(コントンのレベルが上がりました)

というお知らせが。ステイタスをチェックすると、レベルはバラバラというのが表示された。使ってみよう!ということで、ジャガイモを持ってスティック状のバラバラを想像しながら【バラバラ】って発動したら、なんということでしょう。このまま揚げればフライドポテト、ていう形状になった。野菜を切るのに包丁が要らなくなった。食堂では肉は半身の枝肉を買っているので、試しにそのお肉で使ってみたら肉は部位毎にばらばらになってくれた。もしかしたら、コントンって料理のためのスキルなのかな。それで食堂の店主と相談の上、食堂の片隅でテイクアウトのハンバーガーとポテトを始めた。そしたら評判よいというので、食堂の隣を借りてテイクアウト専門のハンバーガー屋さんを開店しました。店長は食堂の店長で、私は従業員兼共同経営者、王城からもらったお金を出資したので。いや、料理作る下準備めっちゃ楽。野菜を切るのに1個づつとかじゃなくて、袋ごととかでもできるようになったし。食堂とテイクアウト店分、みんな下準備はお任せください状態です。


(コントンのレベルが上がりました)

次のお知らせが来たのは、それから3ヶ月後。今度のレベルはマゼコゼ。グチャグチャときてバラバラだったから、ちょっとレベル名で拍子抜けした。でもこれが、すごかった。混ぜられるの!お肉とパンと玉ねぎと調味料と卵をボールに入れて【マゼコゼ】ってやるとハンバーグの具ができあがり!調子に乗って色々な具材を組み合わせて餃子を作りました。お店の新メニューです。スムージーもタルタルソースも美味しいよ。手を汚さずになんでも混ぜられる。フードプロセッサーもミキサーやジューサーもなかったので、コントンて便利と盛り上がった。


 ハンバーガー屋さんにクラスメートも時々、買いに来てくれるようになった。街でも王城でもハンバーガーが噂になっているとか。最初はお互いちょっと気まずかった雰囲気もあったけど、色々とおしゃべりとかできるようになってすごく楽しい。



 

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