あの日に戻れたら

黒姫百合

第1話 もし、あの日をやり直せるなら

 一週間前、幼馴染が死んだ。

 事故だった。

 青信号を渡っていた幼馴染に信号無視の車が突っ込んできたらしい。

 その時、私は委員会の仕事がありその日に限って幼馴染とは帰っていなかった。

 家が隣同士で小中高と同じ学校に通い、毎日一緒に登校したり下校したり、お泊りするほど仲が良かった。

 もし、あの日委員会の仕事がなくて一緒に幼馴染と帰っていたら、幼馴染は死ななかったかもしれない。

「今日は一緒に帰れないんだね」

「うん、委員会の仕事があるから」

「そっか……それじゃーまた明日ね」

「うん、また明日」

 これが幼馴染と交わした最後の会話だった。

 この時はこれが幼馴染との最後の会話になるなんて思いもよらなかった。

 幼馴染の訃報が届いた時、真実味が感じられなかった。

 さっきまで元気に生きていた幼馴染が死んだと言われて信じられるわけがない。

 でも幼馴染の亡骸を見て、少しずつその事実は現実味を帯び、少しずつこの世に幼馴染がいないことを知る。

 もう二度と目を覚ますことがない幼馴染。

 感情がぐちゃぐちゃになり、なにも考えられなくなる。

 どうして幼馴染は死ななければならなかったのか。

 運転をしていた犯人は現行犯で捕まったらしい。

 犯人が捕まっても幼馴染が戻るわけがない。

 その後、葬式が行われ火葬場で幼馴染は焼かれ骨だけになった。

 その時はもうなにも考えられないぐらい放心しており『無』の状態で骨を拾った。

 幼馴染がいない世界は、なにも刺激がなかった。

 あさの『おはよう』も幼馴染の体温の温かさももう二度と感じられない。

 今の私はまさに死んでいるかのように生きていた。

 天を見上げる。

 その空の向こうに幼馴染がいるだろうか。

 七月三十日。

 曇天だ。

 私はあてもなく歩く。

 いっそ死にたい。

 その時、なにか大きな音が聞こえる。

 上がる悲鳴。

 振り向くとそこには大きな鉄の塊が突進していた。

 私の体が宙を舞う。

 体に鈍い痛みが走る。

 意識が遠くなる。

 辺りが騒がしい。

 瞼に力が入らなくなり、私は瞼を閉じた。


 ……そして目を開ける。

 そこは自宅の自分の部屋だった。

 私は起き上がる。

 頭がボォーとしている。

 スマホを付三けるとそこには、七月二十三日、七時十分と表示されていた。

 

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あの日に戻れたら 黒姫百合 @kurohimeyuri

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