第2話
「……ふぅ。さらに真っ暗になってきたな」
自宅までの帰り道。普段の速さなら15分もかからない道のりを、ケンはゆっくりと、靴の裏で踏み締めるように歩を運んでいた。
何しろ、外へ出るのだって久々なのだ。ケンの通う学校はオンライン授業が当たり前。スクーリングは月に1回あればいい方だ。今回だって、例の作文が遅々として進んでないから、特別に学校に呼び出されたものだった。
大気汚染が酷いから。
登校に余計な時間がかかるから。
オンラインでできるから。
――は、無駄。ムダ、ムダ、無駄、無駄、無駄。
いろんなことを並び立てて、“無駄”と判断されたものは目の前から消えていく。そんな言われようもないモヤモヤした思いを抱えながら、ケンの足はひたすら真っすぐ進んでいく。
「……あれ?こんな場所、あったっけ?」
迷路のように張り巡られている、ややくすんだオレンジと茶色のタイルの歩道上を青白く光る街灯を頼りに歩いていると、突如淡い翠緑で色取られた外壁が目の前に現れた。
「有り……、何とか、どう?」
緑の外壁に白く書かれた三文字の漢字。
正式な読み方はわからないが、何かのお店の名前だのようだ。
――ガタッ、ザッ、ガタガタガタッ
!?
真っ暗で中は何も見えないガラス扉の向こうから、擦れたような物音が聞こえてきた。
――誰かいる?
ケンは無意識に体を縮こませながら、音が聞こえた方へ恐る恐る歩み寄る。
――。
――――おいで。
不意に。頬に柔らかい、包まれたような風を感じると、ケンの全身は瞬く間に扉の向こうへ吸い込まれていった。
「わああぁぁぁぁぁ!!」
「ギょエエエぇぇぇ!!」
薄暗く、僅かに照らされている空間の中で、二つの驚音が見事に重なり合う。
「何だオマエ!?」
「ええっ!?毛だまりが喋ってる!?」
手を伸ばしたように包み込まれる不思議な風によって、見知らぬ建物の奥へと入り込んだケン。
尻もちをついた状態で視線を少し上げると、くすんだオレンジ色の毛だまりが、機械音のように加工された声でわあわあ喚いているのに気がついた。
「閉店時間をスギてるのに、何でガキンチョがいるんダ!?」
「えっ、えっ?なになに?ここどこ?何でこんなところにいるの?」
「それはコッチが聞いているんだろうがっ!」
「えっ、えっ?これ何!?どうやって喋ってるの?あっ、自動チャットがついてるとか?うわっ、触れる?本物!?ホログラムじゃないよね!?うわっ!うわっ!うわっ!」
「〜〜〜〜
ケンの生活の中ではほとんど目にすることのない
「…………わかった。わかったカラ。とりあえず落ち着けガキンチョよ」
何を言っても興奮した声しか発しない侵入者に、某動画サイトで知名度を上げたミミズクは、諦めの色を強く放ったため息を大きくついたのだった。
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