夫婦リノベ
エメ
第1話 こんなもの壊しちまえば良い
こんなもの、さっさと壊しちまえば良い、と夫は言った。
それはまるであたしたちの関係に対して言っているみたいだった。
そうね、もう、かなり腐っているしね、
と、あたしは言った。
あたしが見ていたのは、築110年の母屋の屋根なんかじゃなかった。
夫とあたしの間にある、心と心を結ぶ、
共用部分のことだった。
かつてそこには、新しいすべてのものがあった。
花が咲き、命が生まれ、歓声や、笑顔、情熱さえがあった。
夫とあたしは、共用部分なんかいらない、
いっそ、2人を粘土みたいに混ぜ合わせてもらえないか、と願うほどに、毎日ひとつになった。
それなのに、今はどうだ。
2人は、顔をそむけ、共用部分に置かれたゴミの山を眺める。
ゴミ?
そう、いろんなこと。
もう、わずらわしいすべてのことが、そこにはある。
放置され、腐り、あなたがやって、
お前がなんとかしろ、なんでよ、なんでだ
あたしたちは向こうとこっちでいがみ合う。
『こんなものになんの価値があるというんだ、
さっさと壊してしまおう』
夫がまた言った。
『ええ、あなたのお母さんどうかしてるわ、このる110年住宅をリノベーションしたい、だんてね。二千万円もかけてね。それなら最新の安心安全の住宅を建てたいわよ、こんなボロなんか壊してね』
『、、、ボロ、、、ああそうさ、俺もそう思うよ、』
『見るのも嫌よ』
『ああ、さっさと消えてほしい』
あたしたちは、夫の祖母が建てた110年住宅を、口汚く罵っていた。
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