仕事の帰りに。
一色 サラ
第1話
二週間ほど休んで、工場に復帰して三日間が終わった。やっぱりライン作業は難しい。入れ間違いや判断ミスで、後ろから流れてくる荷物が詰まらせてしまう。エラーの音が響いて、指導員の怒鳴り声が頭に響いてくる。なんでだろう。半年も働いているのに、全く上達しない。仕事が覚えられない。やっぱり人と合わせることが難しいのかもしれない。この三日間はひたすら怒られてしまって、頭がぐちゃぐちゃになってしまった。
吐いた息が白い。海へと近づいていくと、だんだんと波の音が激しくなっていく。一月はやっぱり寒い。身体が震えてくる。波打ち際で、今の私の気持ちを表しているかのように打ち付けては引いていく波の音を重なってしまう。できない自分がどうしても許せなかった。もっと上手く出来たらいいのに。
「今日もお疲れ様でした」
工場まで迎えに来てくれた、彼の正樹から私の好きな温かい紅茶を入れてくれた。ベンチに腰かけて、正樹の手が私の手に触れた。
「ありがとう。紅茶。」
「うん。お仕事大変そう?」
「まあ、頑張ってみる。心配しないで、大丈夫だよ。無理しないから」
「そう、大丈夫ならいいけど、本当に無理だけはしないでよ。」
一度、仕事で倒れたことがある。指導員に怒鳴られても頑張ったけど、できなくて倒れたことがあった。なので、この三日間は、前ほど怒鳴られている感じはしなかったが、少しでも怒られるのはやっぱり嫌なものだ。
「分かってるよ」
正樹の優しさが胸を打たれそうだ。空はどんより曇っていて、もうすぐ七時だから、日が暮れて薄暗い空が広がっている。
「こんな時で、申し訳ないんだけど…」
「待って」
正樹が声がとても怖かった。やっぱり別れを告げられるんだ。話を止めてしまった。
「心配しないでよ。」
「ごめん、心の準備させて」
正樹の横が少し困惑しているようにも見えた。手を胸に当てて、少し深呼吸をした。
「いいよ」
「僕と結婚してください」
頭が混乱して、ぐちゃぐちゃになってしまう。
「はい。お願いします。」
仕事の帰りに。 一色 サラ @Saku89make
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